69歳、免許はないけど日本車を買った 分かってほしかった胸の内
69歳の男性が、人生で一番大きな買い物をした。
インドネシア中部ジャワ州のスラゲン。街のあちこちに田園風景が広がる田舎町だ。
街の大通り沿いに、日本車のショールームが立ち並ぶ一角がある。
昨年8月11日、「ダイハツ工業」の車を売るショールームに1人の男性が現れた。
白くなった髪の毛とひげは伸び放題。右肩が破れたシャツを着て、カバン代わりの黒色のポリ袋を肩にかついでいた。
お引き取り願わなければ――。物乞いだと思った警備員が駆けよってポケットマネーのお札を差し出した。男性はそれを断り、こう言った。「車を見せてもらえませんか?」
「きっと大金持ちの男性が貧しい人に変装したドッキリ番組に違いない」。ショールームで働くデジー・アイスさん(35)の頭には人気のテレビ番組が浮かんでいた。
身なりから、どうしても男性が車を買うとは思えなかった。だが、人として、プロの営業担当として「試されている」と思い、店内へ招き入れた。
その日、男性は15分ほど滞在し、パンフレットを手に店を後にした。
およそ1週間後、男性はまた店に現れた。今度は「車を買いたい」と言い、デジーさんに車種や機能の説明を求めてきた。
だが購入には至らず、しばらく悩んで「妻に相談します」と立ち去った。
この男性、一体何者なのか。
男性の名前はワルジさん。
同じ町の住宅街にある平屋の一軒家で暮らす。家の周囲はバナナの木に囲まれ、年季の入った外壁はところどころはげ落ちている。
大きな買い物を前に、ワルジさんはこの家で眠れぬ夜を過ごしていた。
マイカー購入、うずまく思い
生業はごみ拾い。長い日は1…