国家主席が任期途中で異例の辞任 共産党支配の国でいま何が

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聞き手・大部俊哉
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 ベトナムのグエン・スアン・フック国家主席が、任期途中で辞任しました。新型コロナウイルス対策に絡む相次ぐ汚職事件の責任を取ったとされていますが、国を支配する共産党の序列2位の国家主席がこうした形で退任するのは極めて異例です。背景には何があるのか。ベトナム政治はいま、どうなっているのか。ベトナム政治が専門の石塚二葉・アジア経済研究所研究員に聞きました。

 ――国家主席が辞任するという事態になりました。

 国家主席は最高権力者の共産党書記長に次いで序列2位のポジションです。トップリーダーの1人である国家主席が政治的な責任を取り、辞任するというのは例がありません。歴史的に見ても、1950年代に党書記長が土地改革の失敗を受けて辞任したケースがありますが、国家主席では初めてです。

 辞任は17日と18日に開かれた臨時の党大会と国会で承認されており、手続きを踏んではいますが、いずれも半日だけの形式的なものでした。グエン・フー・チョン党書記長が主導し、トップダウンで進めたものとみられます。党政治局は昨年9月、「威信が失墜した幹部は党による処分を待たずに辞職するべきだ」との方針を表明し、その後に党の中央委員や副首相が相次いで辞職しました。フック氏の辞任もその流れの一つです。

 ――新型コロナ対策に絡む汚職の続発が、辞任の理由になったといわれています。

 二つの汚職事件が直接的に影響しました。

 一つは、2020年のコロナ検査キットをめぐる事件です。国内の製造会社が検査キットの価格を45%水増しして各地方の疾病管理センターなどに納入し、計約8千億ドン(約44億円)の賄賂をその幹部らに支払っていたとされています。元保健相や元科学技術相ら100人以上が逮捕されました。

 二つ目は、20~21年のコロナ禍での特別帰国便をめぐる事件です。運航会社が乗客から高額な運賃を受け取り、その便宜を図った政府関係者らに賄賂を渡していたとされます。前駐日大使や旅行会社の幹部ら約40人が逮捕されました。

 フック氏は21年4月に国家主席に就く前は首相として、コロナ対策を主導していました。汚職が起きた時期とも重なっており、監督責任を問われました。

 ――チョン書記長がここまで汚職の摘発を強力に推し進める背景には、何があるのでしょうか。

 チョン氏は13年以来、党主導の「反汚職闘争」を打ち出してきました。特に2期目への留任が決まった16年の党大会以降、党や国家の機関を総動員して摘発や処分を積極的に進めています。にもかかわらず、コロナ禍という非常事態で大規模な汚職が起きてしまった。新たな汚職を防げなかったことへの危機感がうかがえます。

 もう一つは、自身の引退後を見据えての行動でもあると思います。チョン氏は「虫の食った枝を切って木を救う」という趣旨の発言を繰り返しています。現在3期目で78歳という高齢でもあり、一党支配の安定のために、自分の目から見て模範的な人物を指導部に残したいと考えているのでしょう。汚職が党の団結や国民の信頼を損ねているという思いがあります。

国内政治への影響は

 ――フック氏の辞任は、今後のベトナム政治にどう影響してくるでしょうか。

 政治家が刑事責任を問われな…

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