路上生活者からかう動画、なぜ拡散 識者「暴力の背景に目を向けて」
路上生活者をからかいながら撮影した動画が、SNSで広がっている。支援者は「許しがたい」と断じつつ、「悪意が路上生活者に向かう背景にも目を向ける必要がある」と訴える。
動画の一つは、コンビニエンスストアで撮影された。若者が路上生活者に「おごる」と見せかけ、買い物かごに商品を入れたまま、路上生活者をレジ前に置き去りにする。1月、動画投稿サイトに投稿された。
店内にいた目撃者は取材に「笑いながらやっていてちょっと変だなと。かわいそうでした」と振り返る。
この路上生活者が寝ているところを起こされたり、歌を歌ったり、受け答えの仕方をからかったりする動画もある。若者が食料や飲み物を路上生活者に渡した後、何度もお礼を要求する場面もある。
1月に入り、こうした動画に対し、「集団いじめ」「閲覧数稼ぎのため利用されている」といった批判の声がSNSで広がった。地元の民間支援団体には「この方を何とか助けてほしい」といった声が十数件寄せられたという。
ただ、見守ってきた自治体や支援者は、批判も含めて動画に注目が集まること自体が、悪意のある動画の再生産につながりかねないとして、対応に頭を悩ませている。
避けたい「動画の再生産」 悩む関係者
複数の関係者によると、この路上生活者は長年、繁華街近くの路上で暮らしている。地元の自治体は5年以上前から、福祉につないで支援しようと断続的に声をかけてきた。だが、本人は行政の関与を望まず、担当者は声のかけ方などに配慮しながら見守りを続けていたという。
「何とか手をさしのべられないかという思いで、できる範囲の関わりをしてきた。報道などで話題になることで、視聴回数が増えれば、また投稿が過熱する悪循環に陥ってしまう」と行政の担当者は懸念を示す。
動画の撮影と公開は、人権侵害であり暴力だ――。認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」(東京)の大西連理事長は、そう指摘します。記事後半では、大西さんのインタビューを通して、なぜ悪意や暴力が社会的弱者へと向かうのか、そして、どうこの問題と向き合うべきか、考えます。
この路上生活者に取材すると…
- 【視点】
路上生活者への差別や暴力の問題に、ソーシャルメディアと紐づくアテンションエコノミーの問題が折り重なっています。個々人のふるまいをどう変えられるかを考えるとともに、誰もが公開で自由に投稿できる環境(しかも私企業が所有・運営している環境)に対し