広島市立中央図書館、駅前移転が正式決定 市民団体の反発なお
広島市中央公園にある市立中央図書館について、広島市はJR広島駅前の商業ビル「エールエールA館」に移転すると正式決定し、20日、市議会に再整備基本計画案を提出した。昨年に市議会で可決された予算の「付帯決議」は、再整備に関し、市が利用者らに丁寧な説明をするよう求めており、市民団体からは「説明が不十分だ」などとして反対の声があがる。
20日の市議会総務委員会に提出された再整備基本計画案では、中央図書館をA館に移転させ、2026年度の開館を目指すと明記。A館の8~10階に開架、閉架書庫を設け、他の階にも閉架書庫を設ける。10階にカフェコーナーを設け、9階に広島ゆかりの作家の文学資料などの展示を検討している。今年度中に基本設計を発注する方針。阪谷幸春・市民局長は「市民サービスのより一層の充実や利便性の向上を図る」と説明した。
現在の中央図書館は1974年の開館で、老朽化が課題となっていた。当初は中央公園内で整備する方針だったが、21年に公園内には適切な移転先がないなどとして、A館に移転する方針にかじを切った。ただ、静かな環境が損なわれるといった懸念から市民からは反対の声もあった。
市は22年度の当初予算で、A館移転の設計費用として約1億7700万円を計上。市議会は付帯決議をつけて、①現在地での建て替え②中央公園内での移転③A館への移転――の3案について比較検討を求めた。
また検討にあたって、資料を市議会、利用者、有識者といった関係者に丁寧に説明し、理解をしてもらったうえで移転先を決定するとしていた。
市は昨年12月、検討結果を市議会に提出。公共交通の結節点に近く来館者の増加も期待できるなどとして、移転先をA館と結論づけた。
その後、市は有識者らも参加する社会教育委員会議などでも方針を説明。市側は「付帯決議に沿った対応ができ、移転先を決定する段階に入った」(松井一実市長)として、今回の基本計画案を策定した。
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一方、市民団体は「市がA館移転を結論ありきで強行している」などと批判している。13日には8団体が移転方針の撤回を求める要望書を市に提出した。
「広島文学資料保全の会」代表の土屋時子さん(74)は会見で「拙速に結論を出すのではなく、時間をかけて議論を深めたい」と話した。中央図書館に所蔵されている児童文学者の鈴木三重吉や原爆詩人の峠三吉の自筆原稿などの貴重な資料が、商業ビルに移転した後も適切に管理や保管ができるかどうかを懸念する。
「こども図書館移転問題を考える市民の会」の吉田真佐枝さん(67)も「付帯決議の精神をないがしろにしないで」と撤回を訴える。NPO代表やジャーナリストらによる「ひろしまのシビックプライドを考える会」は、新たな検討協議会の設置を求め、1万人以上が賛同するオンラインでの署名活動を続ける。
松井一実市長は12日の定例会見で、付帯決議の位置づけについて「予算を執行する前に、説明や理解を得る手続き」などと説明している。(興野優平)
中央図書館移転をめぐる動き
《2020年》
3月 広島市が中央公園にある中央図書館、こども図書館、映像文化ライブラリーなどについて、中央公園内で集約を検討する方針を示す
《21年》
9月 「エールエールA館」を運営する広島駅南口開発が、市に中央図書館などをA館に移転することを検討するよう求める要望書を提出
11月 市側が市議会でA館への移転方針を説明
《22年》
3月 A館への移転のための設計費を盛り込んだ22年度当初予算が成立。付帯決議で移転先の比較検討や利用者らへの丁寧な説明をするよう求めた
9月 松井市長が、こども図書館を現在地に残す方針を表明
12月 中央図書館などについて、A館への移転、現在地での建て替え、公園内での移転の3案を比較検討した資料を議会に提出。移転先をA館と結論づける
《23年》
1月 議会にA館を移転先とする再整備基本計画案を提出
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