【そもそも解説】理想の物価上昇とは 賃金が上がらず安価望む消費者

編集委員・中川透
【鷹の爪動画】物価高はどうして起きる?=(C)DLE/朝日新聞社
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 物価高で私たちの生活が大きな影響を受けています。日本は物価が下がるデフレに長年苦しんできましたが、物価が上がるインフレに変わっていくのでしょうか。

Q みんなが困る物価上昇だけど、何かよいことはあるの?

A 食品や電気代など、幅広いモノやサービスの値段が昨年から上がり始めました。一方で、日本は長年、物価が下がり続けるデフレに陥り、何とか上げようとしてきました。デフレだと企業は売り上げが落ち、従業員の賃金も下がる悪循環が起きます。最近の物価高で私たちの生活が大変になった一方で、日本経済はデフレの苦しみから抜け出ようとしています。ただ、問題は、物価上昇があまりに急なこと、物価高なのに賃金が上がらず、消費者の負担感が強まっていることです。

Q なぜ物価が急に上がり始めたの?

A 今の物価高の原因は輸入品の価格上昇です。ロシアのウクライナ侵攻で原油や小麦などの国際相場が高騰しました。さらに、円安も進んで輸入価格の上昇に拍車がかかりました。日本の経済はコロナ禍でいったん大きく落ち込み、その打撃から抜け出ていません。賃金が上がって消費が十分に回復する前に、物価だけが高くなりました。いわば悪い物価上昇です。

Q 良い物価上昇もあるの?

A 物価は「経済の体温計」と言われます。賃金が上がって私たちの消費意欲が高まれば、モノの価格が多少上がっても買おうとします。物価上昇は経済活動の盛り上がりを示し、すべて悪いことだとは言い切れません。デフレの時代は物価が上がらない「低体温」で苦しみました。企業は値下げ競争を続け、賃金は上げるどころか削る対象。モノの値段が下がるなか、消費者はさらなる安値を見込み、購入の先送りも起きました。一方、経済が成長するなかで、賃金が上がって消費が高まれば、物価も上がります。賃金と物価が足並みをそろえて上がれば、良い物価上昇と言えます。

Q 物価と日本銀行金融緩和はどう関係するの?

A 日銀は「物価の番人」と呼ばれます。金利を動かすことで物価を安定させ、経済の発展を支えるのが役目です。物価が下がり続けるデフレから抜け出すため、日銀は2%の上昇率をめざして金融緩和を進めてきました。直近はこの水準より高いですが、日銀は安定して2%を上回る経済状況ではないと考え、緩和を続けています。

Q 物価はこれからどうなるの?

A 原油など国際相場の上昇は一服し、昨年の急激な円安から少し円高方向に戻りました。電気代やガス代の急騰を抑える政府の経済対策も始まり、上昇率はやや落ちていくとの見方が多いです。一方で、消費者物価と比べて、企業間の取引の企業物価はもっと上がっています。消費者への価格転嫁のマグマは、まだたまっているとも言えます。また、上昇率が緩やかになっても、価格が高止まりしている状況は変わりません。それに耐えられる賃金上昇が実現するかどうか、注目されています。(編集委員・中川透)

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