「わたし、定時で帰ります。」の作者が語る女性管理職と島耕作の違い

聞き手・中井なつみ
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 「女性登用」が盛んに言われる一方で、「管理職になりたくない」と考える女性も少なくない。このギャップはどこから生まれるのか。「わたし、定時で帰ります。」など、働く女性たちの心を描き続けてきた作家の朱野帰子(あけのかえるこ)さん(43)に聞いた。

 女性管理職へのハードルが高いのは、「女性にとってのロールモデルが少ない」というのが一番の理由ではないでしょうか。

 男性の場合は、管理職になるまで、ひいては社長になるまでのストーリーが身近にロールモデルとして存在しています。漫画の「島耕作」シリーズなども、さまざまな段階の働き方がリアルに描かれていますよね。

 ですが、女性は圧倒的に「こうなるのか」というイメージを持ちにくい。

 会社には、すばらしい男性上司もいれば、「え、この人も管理職になれるの!?」っていう男性上司、いると思うんです。

 それが、女性の場合はそもそもの数が少ないし、そこから管理職になる人は相当「選ばれた人」になってしまう。一気に、ハードルが上がるのです。スーパーウーマンしかなれないぞ、みたいな空気もあります。

 「普通の人」でも管理職になれる男性と、「超できる人」だけが管理職になる女性。その男女差は、まだまだ大きいと感じます。

 上の世代に多い「昭和のお父さん」的な働き方は、専業主婦がいるという前提が当たり前になっています。共働きが増えた今、男女ともに「昭和」的な働き方を続けるのは難しい。おのずと、将来を不安視する人も増えているのではないでしょうか。

 一方で、管理職には「夢」を感じない人も増えています。あんなに大変そうに見えるのに、実はあまり評価されていないというか、会社からの愛の示され方である「金銭的な評価」も、目に見えて上がりません。

 終身雇用が約束された時代に入社し、会社への忠誠度や社内の評価を重要視する世代と、就職氷河期に入社し、転職市場での市場価値など、社外にも目を向けている世代の差も大きいでしょう。

 一方で、私自分もだんだんと管理職世代になってきました。ふと自分の周りの人と話すと、いつの間にか「評価を求める側」から「評価をする側」になってきてしまったんだということを感じます。

 女性は、自己評価が厳しい人が多く、40代の働く女性にインタビューすると、多くの人が「私なんて……」とおっしゃいます。

 でも、この世代で総合職をやっている職場にいる人たちは、みんな強いです。

 買い手市場で就職活動をして、総合職女性が少ない職場で働き、結婚出産しても仕事を辞めず、保活(保育園探し)も激戦でした。

 それらを乗り越えられてしまったがゆえに、私自身、20代や30代の女性から、「もう40代なのに、なぜ弱者ぶるのか」と言われたこともあります。

 就職してから不利に扱われてきた時間が長いので、受け入れるのに時間がかかりましたが、不利に扱われてきたからこそ、「強くなった」部分はきっとある。今の社会をなんとかする立場を、下の世代に期待されているとも感じます。

 管理職になることは、特別なことだと思われがちです。でも、立場が人をつくるという言葉もあります。

 私も普通の会社員でしたが、ベストセラー作家と言われるようになり、いろいろなことを背負わされてもがきましたが、ずいぶん成長しました。

 小説の主人公も、この上司には任せておけないと管理職になりました。まずはなってみて、立場に合わせて成長するのでいいんじゃないかな。

 今の時代、責任のある立場に就くのは怖い。でも、今より重い責任を負ってみたらどんな世界が見えるのか――。そういうことを、考えなきゃいけない年齢になってきたと感じています。(聞き手・中井なつみ)

       ◇

 あけの・かえるこ 1979年、東京都生まれ。大学卒業後、二つの会社での就業経験を経て、2009年に「マタタビ潔子の猫魂」で第4回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞し作家デビュー。主な著書に「わたし、定時で帰ります。」「対岸の家事」「駅物語」など。

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    長島美紀
    (SDGsジャパン 理事)
    2023年2月5日11時7分 投稿
    【視点】

    2019年に国際NGOプラン・インターナショナルが発表した19か国の15~24歳の女の子のリーダーに関する意識調査をまとめた「Taking the Leadリーダーになる」では調査に参加した日本の女の子は、他の18カ国に比べてリーダーとして

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    常見陽平
    (千葉商科大学准教授・働き方評論家)
    2023年2月6日22時57分 投稿
    【視点】

    ■島耕作には、2人女性社長が誕生しているという現実  私は島耕作シリーズが大好きな人材である。外伝、スピンオフまで含め、全巻読んできた。同作品が、特に課長編において問題のある描写が多々あったことは、認めるものの、とはいえ、その初期の強烈な