パキスタンの首都イスラマバード。昨年10月末、衣服や日用品、果実を売る市場は、買い物客でにぎわっていた。魚売り場では、においが漂う中で店員たちがうろこ取りに精を出していた。
一見するとどこの国にもあるような光景だが、ある男性客が野菜売りの店主たちに怒りをぶつけていた。負けじと、店主たちも大きな声で言い返す。
ため息をつき、何も買わずに去ろうとしていた客のナジル・フセインさん(63)に声をかけた。
「野菜の値段が高すぎるって言っていたんだ」
彼が憤るのも、理解はできた。
7月ごろまでは1キロ50~70パキスタンルピー(約30~40円)だったトマトやキャベツは2倍以上になり、地元の人気料理であるビリヤニやカレーに欠かせない唐辛子にいたっては、1キロ400ルピーで売られ、一時的に10倍近くまで高騰していた。
フセインさんは退職後、月4万4千ルピーの年金で暮らす。19~31歳の子ども5人のうち、長女1人以外は無職か学生だという。
「自宅の家賃は月に5万ルピー以上する。物価は上がり続けているのに、給与や年金は据え置きのまま。生活はしんどくなるばかりで、このままでは我が家は破産するしかない」
パキスタン政府によると、物価の動きを示す消費者物価指数(CPI)の上昇率は昨年12月に前年同月比で24・5%を記録。タマネギの価格は4倍強、紅茶や小麦、卵も1・5倍以上に値上がりした。コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻による食料品や燃料費などの高騰で、8月の上昇率は27・26%に達し、地元メディアは「過去49年間で最も高い上昇だった」と報じた。
対ドルレートも急落している。2017年までは1ドル100パキスタンルピー前後が長く続いていたが、今年1月9日には228・27ルピーまで下落し、燃料など輸入品を外貨で買う負担が大幅に増加した。
クリケットの元人気選手だったカーン前首相は昨年4月、経済の低迷を理由に議会で不信任決議が可決され、職を追われた。
■外貨が不足、「お茶飲む量減…