老人ホーム施設長の言葉から浮かぶ、コロナ対策に欠けていた視点
論壇時評 東京大学大学院教授・林香里さん
昨年末、88歳の父が倒れた。入院するもコロナ対策で面会は禁止。会うことができない。そんな当事者として注目したのが、岸田文雄首相が今月20日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを、今春より「2類相当」から季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げる方針を示したというニュースだ。この変更で病院での面会方式も変わるのか、固唾(かたず)をのんで読んだ。
日本では病院や高齢者施設での面会は今も厳重に制限されている。聞いてはいたものの、自分の家族がこの状況になって、改めてその厳しさを知った。病院は、感染拡大防止策を講じつつ、患者のケアをし、さらには家族への説明もしなければならない。のしかかる過重な労働と努力には感謝と敬意しかない。
他方で、例えばドイツでは、事前に検査をして陰性結果を提示し、医療用マスクを着用すれば見舞いもできるようになった。5類への移行後は、一般の医療機関でもコロナ患者の受け入れが可能になるとされる(〈1〉)が、今後、面会のあり方は変わるのか。
こうした対策を決めるにはここまでの3年間に蓄積された科学的・医学的知見が欠かせないが、日本ではそれが政策へと生かされにくいという指摘が目に付く。医師でもあり、医事法の専門家でもある米村滋人は〈2〉で、2021年以降の感染対策は「明らかに失敗だったと言わざるを得ない」と振り返る。欧米では、空気感染に効果がある高機能マスクの着用義務化や換気の徹底といったミクロ対策で感染を抑え込んだ国があった一方、日本は緊急事態宣言や人流抑制といったマクロ対策に固執し、ミクロ対策にシフトチェンジできなかったと指摘。感染者数・死者数が21年以降、大幅に増えてしまった。米村は、失敗の背景には行政の「無謬(むびゅう)性神話」、つまり「一度採用した方針は社会情勢等の変化があっても修正しようとせず、あるいは過去の判断の誤りを認めるような政策変更にきわめて消極的な傾向」があり、そのせいで、世界水準の対策から出遅れてしまったと言う。
思い返せば「令和の鎖国」と…