記憶消える理由、40年目の診断 交通事故被害者に時効はない
角拓哉 聞き手・石垣明真
高校2年生だった1972年秋の定期試験。黒川和子さん(68)=札幌市在住=は自信があった。だって、これまでで一番勉強したのだから。テストの紙が配られた。
「あれ、あれ?」
解答を知っているような気がする。それなのに埋められない。黒川さんは空欄だらけの答案用紙を出した。
1年前に遭った交通事故の影響なのは間違いなかったが、自分の身に何が起きているかわからなかった。黒川さんが受けた障害のことが広く認知されるようになったのは、ずっと先のこと。それまで長い間、黒川さんは周囲の無理解に苦しんだ。
当時、黒川さんは北海道美唄(びばい)市に住んでいた。71年11月15日、部活を終え、徒歩で帰宅途中に車にはねられた。運転手は飲酒運転だった。あと数百メートルで自宅だった。
事故から40日後、病院の集中治療室で意識が戻った。医師は「奇跡」と驚いた。診断は頭蓋骨(ずがいこつ)骨折、脳挫傷、全身打撲。自力で歩けるまで必死にリハビリをした。事故の半年後に退院できたが、左半身にまひが残った。
後遺症はもう一つあった。
事故の1カ月前の出来事が記…