マスクを着けるか、着けないかは個人の判断で――。政府が5月8日からのマスク着用について方針を明らかにしました。新型コロナウイルス感染症が広がって3年、マスクの下は化粧をしないという人も少なくありませんでした。資生堂で20年働いた後、東北大学大学院で「化粧心理学」を研究する阿部恒之教授は、「この3年間で、私たちの顔は上下でちぐはぐになった。ちくはぐではない自分を取り戻す一つの道具が化粧です」と話します。どういうことなのでしょうか。
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――私たちはなぜ化粧をするのでしょうか。
起源は定かではありませんが、赤く塗られた数万年前の遺骨が世界中で発見されています。遺体表面を赤く塗った色が遺骨に移ったものとされており、施朱(せしゅ)と呼ばれる行為です。亡くなって色を失った仲間に血色を取り戻そうとした宗教的な儀式だったのではないでしょうか。
遺体を赤く塗るのならば、生前の人間も赤く塗ることがあったのではないかとも推測されています。
ツタンカーメンに見られるように、古代エジプトでは高貴な人にとって化粧は重要だった。文化として化粧が成立していたのです。
一方、古代ギリシャの哲学者プラトンは化粧反対派でした。化粧は善を求める技術ではなく、快楽を求める慣れ・コツに過ぎないと、著書「ゴルギアス」で主張しています。つまり、化粧は「本当の自分」を粉飾していると非難しているのです。
――本当の自分とはなんでしょう?
人の中にある自分は一つではありません。人に見せたい「公的」な自分。パジャマ姿の時の「私的」な自分。人は状況に合わせて、あるべき「自分」を選び取りながら生きている。どれも本当の自分だと私は考えています。
「公」「私」の同居がもたらす 「不幸な世界」への仲間入り
ただ、マスクをするようにな…

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