子どもを持った親の気持ちがわかるのか 慈恵病院長が胸に刻む言葉
身元を公にせずに産む「内密出産」に取り組む慈恵病院(熊本市)の蓮田健院長(56)。厳しい境遇にいる女性たちと接してきた蓮田さんですが、相手の立場に立って考えることは難しいといまだに感じています。その原点は、駆けだしの医師だったころのできごとにあります。
安全なお産で母子の命を守ろうと、女性が身元を公にせずに出産する「内密出産」を始めた熊本市の慈恵病院。院長の蓮田健さん(56)がまだ研修医だった若いころの話だ。
手術後に「寒い」と訴えた若い女性患者がいて、湯たんぽを渡された。だが麻酔がまだ効いていて、熱さに気づかずにやけどをしてしまった。蓮田さんは女性の父親に説明し、謝罪した。「先生は子どもはいますか」と聞かれ、「いません」と答えると、「子どもを持った親の気持ちが分かるのか」と怒られた。
保身のための説明と謝罪だと受け取られたのかも知れない。どんなことでも、親にとっては本当に心配なんだとはっとした。相手の立場に立って考えることが大切なのだと学んだ。
同じ産婦人科医だった父の太二さん(故人)は、大みそかでもお産を知らせる電話を受けるとコートを羽織って病院に向かった。大変そうな仕事だと思った一方で、たくさんの人から感謝されていると聞いた。高校生の頃には医師になると決めていた。
高校は地元の進学校だったが、成績はふるわず、すれ違う人がみな偉く見えた。医学部に合格するまでに3浪した。いま、慈恵病院に助けを求めてくる女性たちを、蓮田さんは決して責めない。その根底には、こうした自身の生い立ちがあるという。
大学病院などで経験を積み…