岡口判事に44万円賠償命令 殺人事件遺族に「侮辱表現」 東京地裁

千葉雄高
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 東京都江戸川区で2015年に女子高校生が殺害された事件をめぐり、岡口基一・仙台高裁判事(56)=職務停止、弾劾(だんがい)裁判中=からネット上の投稿で侮辱されたとして、遺族の両親が岡口氏に計165万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が27日、東京地裁(清野正彦裁判長)であった。判決は、投稿の一つについて「事実に反し、遺族の人格を否定する侮辱的表現」と認め、岡口氏に計44万円の支払いを命じた。

 現職の裁判官が賠償を命じられるのは極めて異例だ。岡口氏はこれらの投稿で遺族を傷つけたなどとして訴追され、裁判官を辞めさせるかを決める弾劾裁判が続いている。

慰謝料算定で裁判官の立場考慮

 原告は娘(当時17)を亡くした岩瀬正史さん(53)と裕見子さん(54)。岡口氏は17年、事件の判決を載せた裁判所のサイトにリンクを貼る形で「首を絞められて苦しむ女性に性的興奮を覚える男に無残にも殺されてしまった」と投稿した。両親が抗議すると、18年に「単に因縁をつけているだけ」、19年には「俺を非難するように東京高裁に洗脳されている」などと書き込んだ。

 判決は、「洗脳」という投稿は、遺族の名誉を傷つける表現と認定した。慰謝料の算定にあたっては、内容の悪質性や、被害者の命日に投稿されたことに加え、「被告は裁判官として、司法や裁判所に関する投稿では、一般のSNS利用者と一線を画する影響力を有していた」と述べ、裁判官という立場も考慮した。

不法行為」基準は一般人と同様

 17年の投稿については、「原告らの心情を深く傷つけた軽率なもので、現職裁判官に課せられた義務に反した不適切な行為」と非難しつつ、「不法行為となるかは、一般国民と同じ基準で判断される」と判示。裁判例を紹介する投稿も表現の自由の保障を受けることや、投稿された文章の一部は、判決文でもほぼ同じ文章が使われていたことから、「不法行為とまでは言えない」と判断した。

 18年の投稿は、原告に対するものとは認められない、とした。

遺族「裁判官としてふさわしいのか、おのずと分かる」

 夫妻は判決後に東京都内で会見した。

 正史さんは「率直に言うと残念。洗脳というところだけは認められたが、被告が繰り返しやってきたというプロセスがない」と、判決を批判した。

 弾劾裁判について問われると、「(今回の訴訟とは)別に考えるものとは思うが、同一人物に対してやっていること。軽々しくこういう投稿をするということで賠償命令が出た。裁判官としてふさわしいのかをしっかり見て頂ければ、おのずと分かるんじゃないでしょうか」と話した。

 裕見子さんは今回の判決について「私たちは裁判官の投稿だから提訴した」とした上で、「裁判官の職責の重さを考えてもらえなかった部分がある」とした。

 岡口氏に対しては「自分のSNSで適切ではなかったと書いただけで、謝罪も受けていないし、謝罪したいとも言われていない」と話した。(千葉雄高)

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