第8回喫茶店マスターがバス運転、水道検針… 「ミニ村」が直面する現実
「コーヒーショップ栃の木」のマスター、安井敏博さん(50)の朝は早い。
強い寒波が流れ込んだ26日午前6時20分、零下8度の冷気のなかを自転車で走り抜ける。向かった先は店ではなくバス車庫だ。車両をチェックすると運転席に乗り込んだ。
安井さんは、愛知県東部の山あいにある豊根村富山(とみやま)地区に暮らし、村営バスの運転手を兼務している。道のりで1キロ余り離れたJR飯田線の大嵐(おおぞれ)駅(静岡県浜松市天竜区)と地区を結ぶ村営バスは、41分に村役場の富山支所を出発した。
わずか30分のランチ営業
朝から晩まで1日4回、バスのハンドルを握る。その合間に店に戻り、30分だけのランチ営業をする。週末や空き時間をつかって、温泉施設の管理や、鉄道輸送されてくる新聞の配達、水道メーターの検針、ATMの管理まで掛け持ちする。栃の木の売り上げだけでは生活を支えられないためだ。
名古屋市出身で、2004年に移住してきた。このころは合併前の「富山村」だった。静岡・長野両県と接する急峻(きゅうしゅん)な地形の山村で、当時の人口は200人余り。離島を除いた「日本一のミニ村」の名で知られた。
愛知県豊根村にある「ミニ村」富山地区はいま、深刻な過疎化に直面しています。「栃の木」の売り上げだけでは生活を支えきれないという安井さんには、この地区に暮らし続ける理由がありました。
移住は、村内唯一の喫茶店のオーナーを村が募集するという新聞記事がきっかけだ。「いつか自分の店を持ちたかった。富山がどこにあるかも知らなかったけれど、すぐ連絡しました」。開店後は、村役場の職員や出入り業者らでにぎわった。
ところが翌05年、富山村は豊根村への編入合併の道を選ぶ。行政機能の「解体」と急速な人口減に栃の木も直面することになった。
村役場は支所になり、職員が…
- 【視点】
日本の「地方」では、これがむしろ普通ではないか。「百姓」は、百にものぼる多様な副業の所得を寄せ集めて生きてきた。 別に愛知県の山間部集落ではなくとも、レストランが週末のみの営業で、店主は週日には他の仕事をしているという例は、私が訪ねた