湯気の向こうに 人情のぬくもり
世の中、右を見ても左を見ても暗い話ばかり。漫画「天才バカボン」のバカボンのパパのように「これでいいのだ」で済ませられたら楽だろうなあ。あのセリフは、悩める者にとっての救いの言葉かもしれない。
で、JR高崎駅にいる。
下りホームから聞こえてくるのは地元出身のギタリスト布袋寅泰さんの楽曲。「さらば青春の光」のサビ部分を中心にアレンジされたメロディーである。
気分新たに、新幹線に飛び乗る。手にするのは駅構内の売店で買った「味付ゆでたまご」。ネットで包装され1個77円。
白身はのどごしが良く、半熟に近い黄身はうまみが濃縮されている。「カラのむき方」の説明がペーパーナプキンに書かれており、カラをこれに包んでゴミ箱へ捨てるという。
スマホで確かめると、製造先は岩手の工場。1980年に盛岡駅に卸し、仙台駅、上野駅と販売網を広げたそうだ。
つるんとした姿のゆで卵。よくよく見ると、何とも色っぽい。だが、輸入飼料価格の高騰や鳥インフルエンザの影響で鶏卵の卸売価格が上昇している。おい卵よ、お前もぜいたく品になってしまうのか。
新幹線は16分ほどで隣の上毛高原駅(みなかみ町)に着いた。周辺はすっかり雪景色である。改札を出て、待合室近くにある立ち食いそば店で名物「舞茸(まいたけ)そば」を食べる。地元産のそばと濃いめのつゆの相性がいい。このそばは全国駅そばランキングで9位にランクされたこともある。
ズルズル、ズルズル。温かいそばをすする音が響く。汁を飲み干してフーッ。「ありがとうございました」。店員の笑顔が優しい。湯気の向こうに人情のぬくもりがあり、丼の底には明日がある。
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どうでもいいことかもしれないけど、何だかとても幸せな気持ちになることがある。もうすぐ春。「小さな出会い」を探しに街を歩いた。(編集委員・小泉信一)
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