数十万羽のカモメどこへ 激減の銚子港 おこぼれの魚減ったから?
数十万羽の越冬カモメが訪れ「世界有数の飛来地」とも言われた千葉県銚子市の銚子港で、今冬、カモメの姿が激減している。水揚げ量が12年連続日本一の銚子港では、水揚げの船にカモメが殺到する姿が今も見られるが、昔と比べ水揚げが減るなかでカモメにとっての港の魅力が落ちてしまったのだろうか。記者が探った。
1月末の朝。港の対岸の岸壁には白い群れがあった。カモメだ。入港する船があると、群れでまとわりつく。水揚げの際にトラックの横に落ちたり、船員が何らかの理由で捨てたりする魚をその場で食べている。カモメの大きさは様々。羽を広げると、1・2メートルから1・7メートルほどだ。
記者には十分、カモメが多いように見える。ただ、どう撮っても昔の写真のような「カモメだらけ」にならない。
習志野市から野鳥を見るため、銚子港に来ていた男性(67)も首をかしげていた。「色んな種類のカモメが見られるのが楽しみで来たんだけど、今年は数が少ないし、種類も少ない」。原因は不明という。「繁殖地のロシアからの情報もないしね」
千葉県立中央博物館の平田和彦研究員(鳥類担当)によると、親潮と黒潮、利根川からの栄養豊富な水がぶつかる銚子沖は好漁場で、昔からカモメなどの渡り鳥が多かったという。
飛来数は計っていないが、銚子港にはかつて数十万羽が来ていたという。「今はせいぜい数万羽程度」。最も多いのは東北や北海道などを繁殖地とするウミネコで、ロシアのカムチャツカなどから来るユリカモメなど、毎年10種類ぐらいが見られるという。
銚子市はこの冬、銚子港を見下ろす施設をカモメタワーと名づけて「観察の聖地」をPRし始めた。だが、「今年は今のところ飛来数が極端に少ない」(担当者)という状況で、戸惑いを隠せないでいる。
昨年の銚子港は、イワシを中心に水揚げ量が約23万6千トンとなり、12年連続で水揚げ量日本一だった。ただ、昨秋のサンマの水揚げが初めてゼロを記録するなど、全体の水揚げ量はピークの1984年の約3割に減っている。
カモメにとって「おこぼれ」が減ったことが原因だろうか――。温暖化によるエサの変化、越冬地がそもそも銚子から北上した可能性はないのか。そんな疑問を平田さんにぶつけると、北の繁殖地や中継地の状況なども考える必要があるという。「渡り鳥の観測は、地球や生き物と人との関わりを広い視野で考えるきっかけになります」と話す。(大久保泰)
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銚子市は「カモメの街」でもある。
市内の下水道マンホール約6800カ所のうち、約7割のマンホールのふたがカモメのデザインだ。地元の中学校の美術教員が担当した。銚子駅の観光案内所では、このマンホールを描いたカードが1人1枚無料でもらえる。
利根川河口約8キロ上流で茨城県神栖市とつながる橋は「利根かもめ大橋」。カモメのオブジェが立つ。
銚子電鉄の犬吠駅ホームの白い壁には色とりどりのカモメの絵。2020年、「地元に帰る日」と題した銚電のイベントで、「カモメの絵を描くことを通じて地元への思いを深めよう」と呼びかけていた。
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