飲酒事故「全国ワースト」返上へ 山梨各地で根絶の取り組み広がる
飲酒運転による人身事故の件数を、運転免許の保有人口あたりの数でみると、「全国ワースト」の水準にある山梨県。ワーストの返上に向け、県警は取り締まりに力を入れ、昨年の飲酒運転の検挙件数は過去5年で最多となった。飲酒運転根絶の取り組みは事業所や飲食店に少しずつ広がっている。
県警によると、昨年の飲酒運転の検挙は292件に上った。前年より58件増え、過去5年では最多だった。とりわけ、検問や職務質問などによる摘発が前年から61件増えて160件に上り、全体を押し上げた。昨年2月に甲府市内で飲酒運転によるひき逃げ死亡事故が起きたことを受け、県警が取り締まりを強化した結果だという。
一方で、人身・物損事故をきっかけに発覚した飲酒運転の検挙は132件。こちらは年々減り続けているが、楽観できない。飲酒運転による人身事故の件数は、人口比でみると全国的に多い状況が続いているからだ。
警察庁のデータに基づく日本損害保険協会の集計によると、2021年に県内で起きた飲酒運転による人身事故の件数は33件。運転免許保有者10万人あたり5・6件で全国最多。全国平均(2・7件)の2倍以上だった。
山梨県は17年に全国でワースト1位となり、20年まで下位から2位、3位、2位と推移。21年に再び全国最悪の結果となった。
飲酒事故が多い理由について県警幹部は、夜間におけるバスや電車の便数の少なさを一因にあげるが、「はっきりとはわからない」。県警が飲酒運転で検挙した人に話を聞いたところ、「代行運転がつかまらなかった」「コインパーキングで少し寝れば大丈夫と思った」などの言い訳があったという。
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県内では17年に全国ワースト1位になったのをきっかけに、官民挙げての取り組み「オールやまなし飲酒運転根絶対策事業」が19年から始まった。
その一つが、飲酒運転の防止に熱心な事業所や飲食店を認定し、その取り組みをモデルケースとして広く紹介する事業だ。現在、県や県警などでつくる県交通対策推進協議会によって、12の事業所と四つの飲食店が認定されている。
市川三郷町の物流企業「マルエスフリージングジャンクション」は昨夏から、日々の交通事故の情報を社内サイトに紹介。従業員にスマートフォンでチェックするよう義務づけた。情報に触れていない従業員には確認を催促するほどの徹底ぶりだ。
同社は従業員約150人のうち半数ほどがトラックなどの運転手。乗務前後のアルコールチェックは10年以上前から続き、現在は全従業員に対象を広げた。
会社の出入り口には認定ステッカーが貼ってある。同社管理本部統括の数野晴之さんは「従業員は飲酒の時間帯や回数、量に気を付けるようになった」と取り組みの効果を語る。
富士河口湖町の飲食店「塩梅(あんばい)」も認定飲食店の一つ。夜限定の営業で、ノンアルコールの手作りカクテルやワインを充実。ノンアルカクテルは18種類ある。
首都圏からの日帰り観光客も多い。夫と店を営む後藤奈三子さんは「お客さんには事故を起こしてほしくない。でも、お酒を飲むときのような華やいだ気分も味わってほしい」と話す。
夫婦ともに長年、飲食業界で働いてきた。山梨県に根付く「無尽」の飲み会に自家用車で参加する人も多く見てきた。「特定の人が常に運転手役となってお酒を楽しめないのも気の毒ですよね」。メニュー表に代行業者のチラシを入れて利用を呼びかけている。(池田拓哉)
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