第2回16年働いた工場で逝った夫 死後に社長は言った「雇用していない」

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遠藤隆史
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 夫の葬儀は、本当は家族だけで行うつもりだった。

 それを変えたのは、夫が働いていた会社から強い参列の希望があったからだ。

 「長く働いていただいたから、ぜひ社員も参列したい」

 妻(59)は2度断ったが、それだけ社員のことを思ってもらえるならと、最後は熱意に押されて参列を認めた。

 愛知県内の工場に勤務していた夫は、エレベーターに使うワイヤロープの切断加工を手がける技術者だった。

 勤続16年。平日は毎日出勤し、土曜も仕事があることがほとんどだった。朝5時半に起きて30分ほどで家を出て、帰宅するのは遅いと午後10時ごろ。土曜も夕方ごろまで働いてから帰ってきた。

 工場に空調はない。夏場はスポットクーラーで風にあたり、冬場はダルマストーブで暖を取っていた。疲れ果てて家に帰ると、風呂に入り、夕食を食べて寝る。家族といるより工場にいる方が長い生活だった。

 そんな夫が工場で倒れた。

 勤務中に「両足が動かない」と不調を訴え、横たわったまま意識がなくなった。救急搬送されたが、処置のしようがなかった。死因は急性大動脈解離。55歳だった。2015年1月のことだ。

 夫の通夜には、社長を含め、社員の大半が参列した。社長や社員一同名義の大きな花輪が計5基も届き、まるで社葬のようだった。翌日の告別式にも、再び社長や工場長らが訪れた。

 夫の父は、葬儀の様子を見て「あいつはこれだけ多くの社員に愛されとったんやな」と感慨深そうだった。しかし、家族たちのそんな思いはすぐに崩れ去ることになる。

夫は「偽装フリーランス」だったのではないか。残された家族は、夫の死に対する会社側の責任を問い始めます。その過程で、ある決定的な資料が出てきました。家族は裁判で戦うことを決意します。

体調悪ければ「自分で休めばよかった」

 夫の死から2週間ほど後に…

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