太陽光発電で「一石五鳥」 荒れた農地再生に挑む元地銀支店長

山本知弘
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 耕作されなくなった荒れた農地を太陽光発電とセットで再生する取り組みに、三重県鈴鹿市の電気工事会社が力を入れている。「営農型太陽光発電」と呼ばれるもので、土地の有効活用とエコな電気のニーズに目をつけた。挑戦を引っ張るのは、農家出身の元銀行支店長だ。

 工業団地の周りに田畑が広がる鈴鹿市深溝町。もともと木の苗を育てていたという約5千平方メートルの土地の一角に、太陽光パネルを載せた支柱が並ぶ。4メートルほどの間隔で並ぶ支柱の高さは約3メートル。パネルとパネルのすき間からは木漏れ日のように光が差す。

 「幅も高さもあるから作業機械も入れられるし、日陰ができるから夏場でも作業がしやすいんですよ」。長靴姿でそう話すのは森義彦さん(57)。ソーラーシェアリング事業部長の肩書を持つ、電気工事会社「鈴鹿」(鈴鹿市)のグループ会社取締役だ。

 持てあます農地を有効活用して、ニーズの高まるエコ電気の発電も増やそうとする試みだ。グループの農業法人が所有する「畑」に置いたパネルの出力は合計200キロワットほど。パネルは斜めについていて、発電に影響する汚れは雨で自然に落ちるという。地面ではキクラゲなどを栽培する計画だ。

 追い風となっているのは規制緩和だ。従来の営農型太陽光発電は、その土地で「周辺の農地の平均水準と比べ8割以上」の収量を確保しないといけなかった。ところが、脱炭素をめざす流れで「適切かつ効率的」に農地が使われていれば、転用が認められるようになった。この結果、固定資産税は農地並みのまま、つくった電気を売ることができるという。

 同社はグループ内に農業法人があり、農家から土地を借りたり、耕作を請け負ったりできる。パネルの設置や保守も、本業の電気工事業の得意分野だ。

 森さんは百五銀行の元支店長。52歳で早期退職した後に地元企業の「鈴鹿」に再就職した。銀行時代から農業に関心があり、太陽光関連では外部との交渉や事業運営を引っ張る。

 国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)に対する意識が高まるなか、エコな電気を求める企業は増えている。売電だけでなく、こうした企業に事業への出資もしてもらって「発電畑」の規模を広げていく計画だ。

 森さんは「営農型は、国にも農家にも企業にもメリットがある。一石二鳥ではなく、一石五鳥くらいをめざしたい」と話す。(山本知弘)

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