小児がん、できる治療が限られた時に大切な視点は 緩和ケア医の信念
子どもががんなど命に関わる病気になり、できる治療や時間が限られるようになったとき、周りの大人や本人は、その後の治療や生活についてどのように考えていくことができるでしょうか。子どものホスピスの運営に関わり、緩和ケアに詳しい大阪市立総合医療センターの多田羅竜平・緩和医療科部長に聞きました。
――「緩和ケア」を専門にされています。
お子さんが、命に関わる病気にかかり、治療法が限られてしまったとき、病院で最後まで痛みにあえぐ姿を前に、医師としてとても無力感を感じていました。
20年近く前に、子どものホスピス発祥の地である英国で勉強する機会を得てから、緩和ケアに携わるようになりました。
「緩和ケア」が指すものは幅広く、痛みの調整からみとりのケア、意思決定の支援なども含まれます。ただ、「緩和ケアチームです」と病室に現れたりして私たちが前面に出ると、複雑な思いを持つ患者さんもいますので、場合によっては他の医療者の後方支援をしたり、看護師やソーシャルワーカーと連携したりしながら、実際に患者さんにとって役立つ存在になれることをめざしています。
「緩和ケアという言葉がしんどい」の声に
――がんのお子さんがいる親からは、「緩和ケア」という言葉は、残りの時間が限られていることを突きつけられるようで、聞くのもしんどいという声も聞きました。
小児がんの場合は大人のがんと違い、7~8割の子は治るため、多くの場合、治ることを前提として治療を始めます。
その後の経過が悪く、「治る見込みがない」という医学的な事実を告げられても、その事実を親の立場で受け止めるのは困難です。
目をつむりたくなり、シャットアウトしたくなるのも無理はありません。
エンド・オブ・ライフ(終末期)であることを自分の中で受け止めて、体に大きな負担をかける治療法や、病院で過ごすといった選択から切り替えることは非常に難しいことです。
――子どものホスピス(大阪市の「TSURUMIこどもホスピス」)の運営にも関わられています。
がんの子どももずっと病室にいると「患者」として過ごすことになり、どうしてもその役割に押し込められがちで、付き添う親も、窮屈な思いをします。病気であることを忘れられるような場所は大切です。
――子どもと一緒に治療や暮らしの選択を考えていく際に、必要なことは。
この子が今何をしたいか、今この子にとっての幸せは何かという視点で、その選択肢を、医療と社会がサポートすることです。
これを諦めなさいとか、これはできませんという方向性は孤立感を強めるだけなので、できるだけ本人の「○○がしたい」ということを大切にする方向で考えたいです。
そのためには、例えばこの治療の優先順位を下げる、といったようにポジティブに選択していける状態が望ましいと思います。
それから、「学校に行けないのがつらい」「注射が怖い」など、いま困っていることに対して、医師や看護師が一つずつ相談に乗って解決策を提案し、信頼関係を積み重ねていくことが大事です。
記事後半では、治療や生活に子どもの意見をどう反映させるか、社会ができることは何かという視点でお話しいただきました
――患者である子ども本人は、自分の状態をどのようにとらえているのでしょうか。
これは年齢や経験、病院や家…