批判に負けず、計算したウイルス F1好きが極めたシミュレーション

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聞き手・鈴木智之 写真・筋野健太
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 ウイルスを含むせきの飛沫(ひまつ)は、空気中でどのように広がるのか。コロナ禍で誰もが一度は見たであろうシミュレーション。

 京都工芸繊維大学の山川勝史教授(52)は、10年以上こつこつと研究を続けてきた。

 定説にとらわれず、自分の発想を信じて道を切り開いた第一人者だ。

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 ――京都市出身で、地元の大学に進まれていますね。どんな子どもでしたか?

 第2次ベビーブームの世代で、学校が終わると道路で野球をしていました。中学はバレーボール、高校はテニスと軽音を掛け持ちしていました。

 地元の京都大学に行くつもりが、共通1次試験で回答欄を間違うミスをして、次に近い国立大学だった京都工芸繊維大学に進みました。

F1にはまった学生時代

 ――専門は空中や水中での物体の動きを解析する「計算流体力学」。なぜこの分野を志したのですか。

 今の大学生はスマホやファッションなどにお金をかけるでしょうが、当時の男子学生は自動車一択。友人らとそれぞれの車で集まり、ドライブしていました。

 当然のようにF1にも熱中しました。初めは根性とドライブテクニックだけが勝負を分けると思っていたのですが、車を取り巻く空気の流れである「空力」、そしてそれを計算するエンジニアの存在が重要と知りました。

 それで流体力学の研究室を選びました。一番ハードで忙しい研究室と聞きましたが、そんなところで研究の世界に入り込みたいという気持ちもありました。

 研究室には昼の3時に来て、夜の3時までいて、「解適合格子(かいてきごうこうし)」という計算を効率よくできるための手法を研究していました。プログラミングが主な作業で、熱中すると朝になっていることもありました。

 ――いったん東レに就職されています。

 液体の樹脂を流して製品をつくるためのシミュレーションをしていました。

 大学では時間を気にせず研究しなさいと言われますが、企業は無駄なことはしません。時間を意識するマネジメントを学びました。

 ――動く物体のシミュレーションを20年以上続けています。

 計算手法を編み出すところから始めて、乗り物から人の動き、心臓の拍動までいろんなものに応用しました。

 そもそもシミュレーションは、実験を全部コンピューターの中に放り込んでしまう考え方です。コンピューターは人間と違って休まず計算し続けます。

 水泳の研究では、仮想のデジタルスイマーさんに眠らず泳いでもらった結果、ドルフィンキックはひざを曲げる角度が60度の時、一番進みやすいとわかりました。

 ――心臓のシミュレーションは難しそうです。

 初めはしぼんで動くだけでしたが、ひねりながら血流を搾り出す動きも再現できるようになりました。

 心筋の複雑な動きも計算に入れて、本当に実際の心臓に近いものをつくろうとしています。実際の手術などにも役立てたいと思っています。

エアロゾル感染をシミュレーション

 ――ウイルスなどの飛沫、微粒子の解析で注目されました。以前は「使えない研究だ」と批判されたこともあったとか。

 2009年の新型インフルエ…

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