第7回民業圧迫以上の「本当の危機」とは 民放連幹部がNHKに望む役割

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聞き手・野城千穂
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 多くのメディアが競合するインターネットの世界で、巨額の受信料収入に支えられる公共放送が果たすべき役割とは何か。長らくNHKとともに放送業界の「二元体制」を構成してきた民放は、岐路に立つNHKに今後何を求めるか。全国の民放205社が加盟する日本民間放送連盟の堀木卓也専務理事(64)に話を聞いた。

 ほりき・たくや 1958年、東京生まれ。早大法学部卒業後、84年に民放連に入る。業務部、編集部を経て、2005年から企画部で放送関連の法制度改正や民放各社の意見調整に携わる。19年に常務理事会長室長、22年から現職。

 ――今は放送の「補完」と位置づけられ予算も制限されているNHKのインターネット業務を「本業」に格上げするか、総務省の有識者会議「公共放送ワーキンググループ(以下WG)」で昨年から議論が続いています

 NHKは、公共放送から「公共メディア」をめざすと言っています。NHKがやろうとしていることは、いま放送で果たしている公共性を、ネット空間でも果たしたいということ。とても大きな変換です。

 ただ、公共メディアという言葉は放送法のどこにも書かれていません。公共放送として放送法でデザインされているNHKが、自称するだけでなく本当に公共メディアになるには、放送法との整合性を考える必要があります。特に、公共放送の根幹たる受信料制度についてです。

 放送法64条には「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は(中略)、協会と受信契約を締結しなければならない」とあります。

 今やテレビもネットに接続できるようになり、視聴者は放送経由なのか通信経由なのかを気にしなくなってきたと思いますが、制度上は厳然と「放送」と書いてあるのです。NHKが公共メディアをめざすのであれば、放送の受信機にひもづいた現在の受信料制度の見直しは欠かせない。民放連はかねて、そう主張してきました。

 私はこれが一番大事な所だと思っていますが、ここまでのWGの議論では、ネット時代のNHKの機能・役割や業務範囲の話が中心で、その財源や受信料制度については後回しになっています。

NHKのアプリを入れた人から対価を?

 ただ昨秋のWGの初会合では、本格的な議論に先立ち、複数のメンバーから「パソコンやスマホなどネットに接続できる機器を保有しているだけで費用負担を求めるべきではない」といった意見が上がりました。私も同感です。

 中には、パソコンやスマホにソフトをインストールするなどして、自らNHKのコンテンツを受信できる環境を用意している方々に対しては費用負担を求められるようにするべきだという意見もありました。つまり、放送の受信料の枠組みは基本的に残しつつ、たとえばNHKプラスなどのアプリを入れた人はNHKを視聴する意思があると判断し、何らかの対価を払ってもらうという考え方のようです。

 ――これまでのNHKの説明では、仮にネット業務を本来業務化した時にどんなサービスを展開するのかが見えません。堀木さんもWGで「趣旨や業務内容を具体的に説明していただきたい」と要望しました

 中身は分かりませんが、方向性としてNHKは「情報空間の参照点の提供」と「多元性の確保への貢献」を掲げています。NHKが昨年、日頃テレビを見ない計約3千人を対象にインターネットサービスの社会実証をしましたが、そこで試験提供したサービスを見ると、具体的な中身も想像はできます。フィルターバブル(得られる情報の偏り)を防いだり、フェイクニュースに注意を促したりすることを企図した機能がありました。でもあれも実験ですから、実際どうなるかは分かりません。

「ネット受信料」は現実になるのか。堀木さんは、NHKのネット進出を話し合う上でまず財源の議論が必要なのではと語ります。一方で、ネット空間では既存のメディアが手を携えてやるべきことがある、とも。堀木さんが懸念する「本当の危機」とは何でしょうか。

 これは鶏と卵で、NHKから…

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