フィリピン収容施設の「緩さ」 ルール明文化されず裁量や交渉しだい

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聞き手・多鹿ちなみ
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 日本各地で起きている広域強盗事件で、フィリピン入国管理局の施設に収容されている日本人が、施設内から指示を出していた疑いが浮上しています。施設内で携帯電話を利用できたことが要因と見られますが、なぜこのようなことが可能だったのでしょうか。在フィリピン日本大使館専門調査員を務めた経験もある神戸市外国語大学国際関係学科の木場紗綾(さや)准教授に、現地の制度について聞きました。

 ――収容施設で携帯電話が使えるというのは、日本人からすると驚きですが、フィリピンではどのような認識なのでしょうか?

 フィリピンでも、現地の人が収容される拘置所や刑務所では携帯電話は使えません。一方、今回問題となっている収容所は入国管理局の施設で、オーバーステイなどで強制送還を待つ人たちが収容されています。そこでは、本国との連絡や航空券の取り直しなどが必要になることもあるため、携帯電話の使用自体は条件付きで認められるケースもあります。収容所周辺の住民は、中の人間が携帯電話を使っていることもある程度知っているので、今回、日本のメディアが押し寄せてきていることに驚いている状態です。

 ただ問題なのは、携帯電話の使用を含め収容所生活に関するルールが明文化されていないことです。看守の裁量や交渉次第で変わってしまいます。警察などの法執行機関や入管の規則は整備されていますが、末端まで統制されていないというガバナンスの問題があります。

自分の生活の安定が優先

 ――看守の裁量や交渉次第で変わってしまう背景には、どういったことがあるのでしょうか?

 「交渉・取引をして賢く立ち回り、利益を得ることは何ら問題がない」という考え方は社会全体にあります。収容所だけでなく、外国人のビザの延長や就労・結婚などの手続きの際にも「賄賂を払ったら早く手続きしてやる」と言われることは日常茶飯事です。下級公務員は給料も高くなく、日本ほどのプロフェッショナル意識もない。昼間は公務員、夜はタクシー運転手をしているという人も多く、自分の生活を安定させることが優先されてしまっています。

 また、収容者と外部との接触制限が日本と比べて緩いという点も指摘できます。日本では面会できる人も限られていますが、フィリピンでは地域の一般人も刑務所内に入るケースもあります。以前、青年海外協力隊としてフィリピンでスポーツを教えていた日本人がいたのですが、刑務所内の運動施設を使って地域の子どもたちにも教えたりしていました。

 彼と一緒にある刑務所を訪れた際、日本人の囚人から「お前、日本人か」と話しかけられたこともありました。そのように、場所によっては監視もない状態で自由に会話ができることもあります。統制されたルールがなかったり、あっても担当者のさじ加減次第だったり、という面はあります。

困惑してるのはむしろフィリピン側

 ――強制送還を免れるために、フィリピンで知人に告訴してもらうという手段を取っていたことが指摘されていますが、そこに制度上の問題はないのでしょうか?

 フィリピン人は打ち解けやす…

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