水戸京成百貨店なぜ雇調金不正受給 疑問の声に総務部は「問題ない」

久保田一道
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 水戸京成百貨店で発覚した約3億円にのぼる雇用調整助成金(雇調金)の不正受給問題。県内唯一の百貨店は、なぜ自らのイメージをおとしめる不正に至ったのか。そしてなぜ、不正を内部でただすことができなかったのか。

 水戸京成百貨店のホームページによると、2022年1月時点の従業員は474人。20年2月決算での売上高は251億円だった。

 同社によると、不正が始まった20年春は新型コロナウイルスの感染が広がり、大部分のフロアで休業が続いた時期で、同年4、5月の売り上げは前年同期比で約6割減少したという。官報の決算公告によると、当期純利益は、20年2月の2億1100万円から、21年1500万円▽22年1900万円と減った。

 決算の規模から見ても、3億円は決して小さくない金額だ。1月31日に会見した芹沢弘之社長は、不正受給について「赤字に対する恐怖心」「過度な黒字確保への意識」が背景にあったとした。

 会見では、社内で不正を疑う声があったことも明らかにされた。

 同社では、従業員の出退勤時にカードをリーダーにかざして勤務時間を管理し、総務部で給与計算をしていた。一連の不正は、取締役の総務部長の指示で同部の担当者らが、実際には出勤していた従業員が休業したように改ざんする方法で続けられていた。

 同社によると、その後、給与明細に記載された勤務日数と自分の実際の勤務日数が異なるなどと、複数の従業員から総務部に問い合わせがあった。人事担当者は「給与の総額は変わらず、問題はない」という趣旨の回答をしていた。

 21年1月には、社内に設けられた「目安箱」に、雇調金をもらっているのにその分の休暇を取得していないとして「違反では」との指摘も寄せられた。窓口は総務部で、部長も指摘を把握したが、特段の対応はとらなかったという。

 内部通報制度の事務局や内部監査の担当も総務部だったため、事実上、内部統制が働かない状況だった。

 発覚の端緒は、退職者から茨城労働局にもたらされた情報だった。昨年11月に同局が査察。直後に社内調査を担った総務部長は当初、各部門が勤務日数を誤って処理したことが原因と主張し、「それを信じてそのまま助成金の申請をした」と事実と異なる説明をしていた。改ざんを認めたのは翌12月だった。

 労働局が正式に不正を認定すれば、不正受給分やペナルティー、延滞金、実際の勤務状態に合わせて受給した雇調金の返還が必要になる。同社は返還の総額が約13億4500万円にのぼるとみている。

 芹沢社長は「総務部を監査する部署がなかった」とし、「独立した牽制(けんせい)機能」が必要との見解を示した。

 企業統治に詳しい八田進二・青山学院大学名誉教授は、総務部が窓口になっていた内部通報の仕組みが従業員から信頼されていなかった可能性があると分析。「グループ管理の側面からも、社内ではなく、親会社の京成電鉄内に窓口を置くべきだった。一般的に、子会社には独立した通報窓口を運用できる人的、財政的余裕が乏しいことが多い」と指摘する。(久保田一道)

雇調金不正受給の発覚の経緯

2020年春 総務部による勤務日数の改ざん始まる

20年春 給与明細にある勤務日数を見た従業員から疑問の声が出るが、総務部は「問題ない」と回答

21年1月 社内の目安箱に「違反では」との指摘。総務部は対応せず

22年11月 退職者からの情報をもとに茨城労働局が査察。総務部長は社内のミスが原因と説明

22年12月 総務部長が改ざんを認める。親会社の京成電鉄と外部の弁護士が調査開始

23年1月31日 延べ2万3795人分、計3億円超の不正受給を公表

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