山田洋次連載「夢をつくる」 劣等生だった僕、映研に救われた

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 今年の9月1日に新作映画の公開を控えている山田洋次監督(91)。その創作意欲の源泉はどこにあるのでしょうか。これまでの様々な出会いを振り返りながら、映画づくりを通して、日々、考えていることを伝える連載です。

 

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■連載「夢をつくる」第13回

 あきれたことに、この年になっても大学時代の試験の夢をみます。何の準備もなく試験を受けなければならない恐怖。僕はまったく劣等生でした。苦労して東京の大学に入ったのに授業がさっぱり面白くない、というよりわからない。クラスメートがいきいきとノートをとったり教授に質問したりしている姿を見て、ひどく劣等感に駆られ、授業に出るのが嫌になり、寮の部屋に閉じこもる毎日となってしまう、不登校みたいなもの。図書館で借りた小説をベッドで読みふける不健康な日々が過ぎていく。そんなある日、同室の友人のO君が授業から帰ってくるなり僕のベッドに腰かけて「おい山田、君に話がある」と切り出した。

 O君は長野県出身の秀才。信州人には頭のいい人が多いが、彼は同室でも際立ってカミソリのような頭脳の持ち主。その彼が語り出したのはこういうことだった。

 ――君は今そうやって誰ともかかわらずに過ごしている。授業に出ないのはかまわない。しかし一人で孤立しているのはよくない。他人を冷ややかに眺めるのではなく、仲間に加わって行動を共にするなかで君が変わっていく、つまり成長している自分を発見できるはずだ。どこでもいいからサークルに入れよ、そして一緒に行動してみろよ、それが多少馬鹿らしいことに思えても。

 黒縁のメガネを通して奥眼(…

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