今年は増加の季節性インフル、昨年の少なさは「ウイルス干渉」か?

酒井健司
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 3年ぶりに季節性インフルエンザが増えてきています。例年と比べて多いわけではありませんが、問題は新型コロナの流行も続いていることです。新型コロナの第8波はピークを超えたものの流行がおさまったわけではありません。発熱患者が増えると医療体制は容易に逼迫(ひっぱく)します。

 昨年、一昨年はインフルエンザの流行はほぼみられませんでした。理由はいくつか考えられますが、やはり、新型コロナに対する感染予防対策が主な要因だと私は考えます。新型コロナもインフルもどちらも呼吸器感染するウイルスで、感染経路も似ており、新型コロナ対策がそのままインフルエンザ対策にもつながります。今シーズンは対策を緩めたためインフルエンザも流行するようになったのでしょう。

 他に考えられる要因として「ウイルス干渉」があります。ウイルス干渉とは、あるウイルスに感染すると別のウイルスに感染しにくくなる現象のことです。2021年にイギリスから報告された研究によると、検査でインフルエンザが陽性だった人は、陰性だった人と比べて、新型コロナが検査で陽性になるリスクが58%低かったという結果でした(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33942104/別ウインドウで開きます)。素直に解釈すれば、インフルエンザに感染すると新型コロナに感染しにくくなると言えます。

 ただし、2020年1月から4月までのデータによる研究なので、現在流行しているウイルス株にも適用できるかどうかはわかりません。実際、2022年末のイギリスでは同時流行して医療体制が逼迫し、救急外来での救急車の待ち時間が過去最長となりました。ウイルス干渉が起きるとしても、同時感染しにくくなるだけで絶対に同時に感染しないわけではありません。また、同時に感染すると重症化しやすいと言われています。先ほどの研究では、新型コロナとインフルエンザに同時に感染した人は、新型コロナのみの感染者と比べて、死亡リスクが約2倍でした。

 当たり前の話ですが、ウイルス干渉を期待して新型コロナの感染対策をおろそかにしていわけではありません。私は高齢者や基礎疾患のある患者さんと接触する機会が多いこともあって、ワクチン接種に加え、手洗いやマスク着用といった基本的な感染対策を続けています。医療体制の逼迫時に病気にかかると、平時と比べて十分な医療を受けられない可能性もあります。集団を守るだけではなく、個人の損得だけを考えても感染対策をおすすめします。(酒井健司)

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酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。