千葉市の公立夜間中、今春開校 「進学し就労が夢」アフガン人ら

重政紀元
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 4月に公立夜間中学が千葉市内で開校する。様々な理由で中学に行くことができなかった人たちの学び直しの場となる。中でも多いのが、日本語の習得が不十分な外国人。同校では各クラスに担任のほか、学習支援補助、日本語の教員を配置する手厚い支援を予定している。(重政紀元)

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 開校するのは市立真砂中かがやき分校(美浜区)。真砂中に隣接する教育複合施設まさご夢スクールを活用し、各学年1学級を設ける予定だ。授業は夕方から夜間にかけて行われる。

 市教育委員会は昨年10月から学校説明会を実施。市教委は30人程度が入学すると見込む。出願者は10代3割、20代2割、30代3割と30代以下で全体の8割を占める。

 設置の背景にあるのは、義務教育の中学を出ていない人が相当数存在することだ。国は昨年5月、国勢調査で最終学歴が「小学校卒業」の人について調査結果を公表。全国では約80万4千人、うち県内は2万6805人、千葉市内は2371人いた。

 戦前の教育制度の違いなどが原因とみられる80代以上が9割を超えるが、50歳未満も全国で約1万3千人、うち県内は700人、千葉市内は106人いた。半分を占めるのが外国人、残りはいじめなどによる不登校、病気などが原因とみられている。十分な教育を受けられていないのに学校側の配慮で卒業扱いとなったケースを含めると、学び直しの対象になる人はもっと多いとみられる。

 このような状況を受け、千葉市では同校に手厚い支援体制を取る予定をしている。各クラスごとに担任のほか、学習指導のための補助教員、日本語指導教員を置く。「ここまで手厚い配置は全国でも珍しいのではないか」(市教委企画課)という。

 特に課題とみているのが外国人だ。文部科学省の調査では昨年度段階で不就学の可能性のある国内にいる外国人の子どもは1万3240人。2020年1月時点で全国の公立夜間中学に在籍する1729人のうち8割が外国籍だった。

 市教委でも、入学者の内訳について3分の2が外国人になると予想している。県内にある公立夜間中学は市川市松戸市の2カ所だけ。千葉市周辺にはなく、市外からの入学も相当あると見込まれている。「日本語がほとんどできない生徒が相当いると考えている」(同課)という。

 千葉市や周辺の四街道市佐倉市八千代市などには、中国、アフガニスタン、南米などのコミュニティーがあり、家族を呼び寄せるケースが増え続けている。説明会や相談では外国籍の入学希望者向けに17言語での通訳支援を用意した。

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 かがやき分校への入学希望者で目立つのが10代のアフガニスタン人だ。

 四街道市のアブドル・アリ・サラフディンさん(16)は首都カブール出身。12年前から中古自動車関係の仕事をしている父親の後を追い、昨年5月に来日した。義務教育期間を1年残していたが、前年に政権に戻ったタリバンの好戦的な様子に「不安を感じた」ためだという。

 9月に日本語や高校入学に必要な学習指導をしている多文化フリースクールちば(千葉市中央区)への入学を申し込んだが、正規クラスは満席。特別に設けられた週2回の授業と自宅で宿題をすることで勉強を続けている。英語での意思疎通はできるが、込み入った会話はスマホアプリを通して行っている。

 夜間中学への進学を希望する理由は「高校に行きたい」からだ。夜間中学に入っても昼間はフリースクールで勉強し、中学卒業資格を得たら昼間は父の仕事を手伝いながら定時制高校に通うという。「安全な日本にずっと暮らしたい。大学にも行き、父の仕事を大きくしたい」

 進学意欲が高いのは、高校卒業が在留に大きく関わるためだ。移民の受け入れには厳しい出入国在留管理庁だが、高校卒業者には就労の自由度が高まる「特定活動」、「定住者」へのビザ切り替えを認めている。

 母国で就学の機会が狭められている女性にとっても夜間中学は希望となっている。タリバンはすでに1年以上にわたって中高生年代の女子生徒の通学を禁止。昨年末には大学についても無期限に停止するとの通知を出した。

 やはり昨年からフリースクールに通う四街道市のセタイシュ・マリク・ホセインさん(17)も来春から夜間中学とフリースクールに重ねて通う。卒業後は高校進学を目指している。

 イラン国境に近い町の出身。自動車関係の仕事をする父の仕事の都合で4歳の時にドバイに移り、昨年7月に来日した。子どもの時から将来の夢は医師になることで、夜間中学では、まだほとんど話せない日本語を学ぶとともに理科を勉強したいという。

 今後も日本にいたいという思いは強い。理由はやはりタリバンが政権に戻ったことだ。「戻っても自由に勉強できない。日本は学校も仕事も男女で差がないのが素晴らしい。夢をかなえるためにも夜間中学で頑張って勉強したい」

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 〈公立夜間中学〉 公立中学校に置かれた夜間学級の略称で、卒業すると昼間の中学を卒業したのと同じ卒業資格を得られる。もともとは戦後の混乱期に、貧困や家族離散などで就学の機会を逃した人たちに学習の場を提供する場だったが、近年は病気や不登校だった人、母国で義務教育を受けていない外国人らの受け皿となっている。現在は15都府県に40校だが、千葉市を含め13校が開設を予定・検討している。文部科学省は、各都道府県・指定都市に1校は設置することを求めている。中学の卒業資格は得られないが、市民が運営する「自主夜間中学」もある。

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