女性文化賞に吉峯美和さん

阿久沢悦子
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 女性史研究やマイノリティー支援、反差別などの活動に携わる女性を支える「女性文化賞」の第26回受賞者に、山梨県忍野村在住の映像ディレクター吉峯美和さん(55)が選ばれた。1月に授与式があった。

 受賞理由は、吉峯さんが監督を務めた映画「この星は、私の星じゃない」。ウーマンリブ運動の旗手と言われた田中美津さん(79)のドキュメンタリーだ。1970年代、母か性的な存在かでしかない生き方からの解放を唱えた女性の、現在の姿を描き出した。

 吉峯さんは美術や紀行番組を手がけてきたフリーの映像ディレクターだ。2013年、NHK・Eテレの特集「日本人は何を考えてきたのか」で平塚らいてうと市川房枝を取り上げたことで、フェミニズムと向き合うようになった。15年にはEテレ特集「日本人は何をめざしてきたのか 未来への選択 男女共同参画社会~女たちは平等をめざす」で、田中さんにインタビューした。

 「女性解放は大事だけど、自分解放はもっと大事」「大したことのない、かけがえのない私」

 人生哲学が詰まった田中さんの言葉の数々に、吉峯さんは「面白い、もっと聞きたい」と感じたという。そこで、映画を作ろうと決意。寄付を募り、私財も投じて、4年かけて映画を完成させた。

 鍼灸(しんきゅう)師として、黙々と治療し続ける姿。成人した息子に対し、母として口出ししてしまう自分との葛藤。「過激な女性運動の旗手」という従来のイメージとは違う姿がそこにあった。

 米軍による少女らへの暴力に抗議の意を込めて続ける沖縄での座り込みにも同行した。密着して撮影を続けるうち、5歳の時に受けた性被害が、田中さんのその後の歩みに大きな影響を与えていると吉峯さんは気づいたという。70年経っても癒えない傷。ウーマンリブも鍼灸師も「自分を癒やし、取り戻すための人生だったんだろうなあ」と吉峯さんは見る。

 映画は19年夏に公開された。ちょうど、女性たちが性被害を告発する#MeToo運動が盛り上がっていた時期だった。田中さんを苦しめ、ウーマンリブへと動かした問題は今なお解決していないことを示していた。

 吉峯さんは受賞に際し、「田中さんは言葉と生き様をもって、表現をしている人。賞は、田中さんからいただいた気がします。忍野に拠点を置き、これからも表現者を撮っていきたい」と喜んだ。(阿久沢悦子)

     ◇

 〈女性文化賞〉 H氏賞などを受賞した詩人で、評論でも活躍した高良留美子さん(故人)が1997年に創設。女性史研究やマイノリティー、反差別、反戦などの活動に携わる在野の女性を支えるのが目的で、私費で賞金を授与してきた。2017年から、女性史研究者の米田佐代子さん(88)が引き継いでいる。

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