左派への共感、右派への違和感 鈴木邦男さんが貫いた「愛国」とは
「リベラル保守」の政治学者・中島岳志さんに聞く
新右翼団体「一水会」の創設者で、作家・評論家の鈴木邦男さんが1月11日に79歳で亡くなりました。「リベラル保守」の政治学者で東京工業大学教授の中島岳志さんは、対談やイベントでたびたび鈴木さんと顔を合わせ交流があった一人。「時代が右傾化するほど、鈴木さんは左派と声が合った」。中島さんに話を聞くと、鈴木さんのそんなスタンスが浮かび上がってきました。(聞き手・真田香菜子)
右派は人間の理性に懐疑的
――近年の鈴木さんは、いわゆるリベラルや左派と呼ばれる人とも、護憲や安保反対について語り合うなど親しく交流していました。中島さんもそのひとりですね。
私は「リベラル保守」という立場をとっており、右翼とは立場が違いますが、鈴木さんとは親しく交流させてもらいました。初対面は、2009年に憲法を扱うウェブサイト「マガジン9条」(当時)での対談でした。私にとっては、鈴木さんが直接知っている森田必勝(まさかつ)や持丸博は研究対象でしたから、その後、聞き取りをさせていただいたり、講演会に一緒に呼ばれたりすることも多かった。鈴木さんには「僕より右翼に詳しくてすごいな」と褒めていただいたこともあります。
私みたいな者と付き合う鈴木さんを、「ちゃらちゃらして」とよく言わないいわゆる右翼の方も大勢いましたね。
――なぜ思想が反対とも言える人に共感するのでしょうか。
そもそも右翼の一番の土台は、近代主義的な人間観に対するアンチテーゼです。右、左という呼び名の起源は、フランス革命の後にジャコバン派(革命派)が議会の左側に座り、アンシャンレジーム派(旧体制派)が右側に座ったことに由来します。
左派は、人間の理性や知性に信頼を置き、設計図通りに革命をしていけば、必ずや人類社会は進歩した未来をつくることができると考えますが、右派はそういった人間観を懐疑します。「歴史を振り返れば、人はどんなに頭が良くても間違え、世界全体を正しく理解することなどできやしない。私たちは有限性を持ち、不完全なる存在として自己を見つめ直さなければならない」という発想ですね。ヨーロッパの右派は、唯一無限なるものとしての神の存在が大きく、人は神から生み出された有限な存在であると捉えています。
であるならば、「人間の理性や知性に過度の信頼を置き、完成された社会をつくる」という左派の主張は警戒すべきもので、そうではなくて長年の歴史のなかで担保されてきたものを大事にすべきだというのが右派の大くくりの考えです。
記事の後半では、極左集団のテロ行為に共感した鈴木さんが「新右翼」と呼ばれるようになったいきさつや、思想・立場が異なる左派と接近した理由に迫ります。
ただし、右翼と保守は違いま…