「アジアを陣取りの対象にさせない」 マルコス大統領、初訪日の狙い

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聞き手・大部俊哉
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 フィリピンを巡る各国の動きが活発になっています。1月にはマルコス大統領が中国の習近平(シーチンピン)国家主席、オースティン米国防長官と相次いで会談。2月8日からは大統領として初めて訪日しています。米中対立のはざまにある東南アジアで今、何が起きているのか。マルコス氏とはどのような人物なのか。フィリピンのデラサール大学のレナート・デ・カストロ教授(フィリピン外交・安全保障)に聞きました。

 ――日本でも米中の競争に関心が高まっています。マルコス氏は米国や中国に対し、どのようなスタンスを取っているのでしょうか。

 マルコス政権の外交政策は非常にナイーブです。「すべては友、敵はなし」。ただ、それが理にかなっているかは別問題です。

 1月にスイスで開かれた世界経済フォーラム(ダボス会議)で、マルコス氏は「我々は東南アジア諸国連合(ASEAN)として、(米中の)対立から距離を置くと決意している。アジア太平洋、インド太平洋の未来は我々にしか決められない」と述べました。

 フィリピンと東南アジアを戦略的競争の渦中に置こうとする圧力が双方からあることを認めたうえで、米国の「スイングステート(揺れ動く州)」のように陣取りの対象にさせないよう距離を置く、という姿勢を明確にしたのです。これが基本的な立場です。しかし、ASEANの絶縁能力には限界があることも認識しています。一種のジレンマですね。

「マルコス氏は地域紛争に巻き込まれたくない」

 ――ジレンマを生じさせる要因は何でしょうか。

 ASEAN諸国は地理的にも政治的にも、大国にとって魅力的な地域に位置しています。近くには西フィリピン海(南シナ海)、台湾という二つの地政学的な火種があります。マルコス氏はこれらの地域紛争に巻き込まれることを望んでいませんが、それは困難です。

 ――マルコス氏は1月4日に中国で習近平氏と会談しました。この成果をどう見ますか。

 目立った成果があったとは言いがたい。西フィリピン海で意図しない衝突を避けるため、両国の外交当局間で直接連絡ができるホットラインを設置することで合意しました。しかし、それが有効かどうかはまだわかりません。また、中国は再生可能エネルギーなど計228億ドル(約3兆円)の投資を約束しましたが、これもまだ見通せない部分があります。中国に融和的な政策を取ったドゥテルテ前政権時代にも中国は多額の投資を約束しましたが、実現したのはほんの一部です。それは「約束のわな」でした。たくさんの約束がありましたが、実際には多くの実質的な成果は生まれませんでした。

 ――中国との間では、南シナ海の南沙諸島で緊張が高まっています。

 マルコス氏は、これからもこ…

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