高級ブランド「松阪牛」輸出、大幅拡大へ 訪日外国人の減少など受け
三重県産の高級ブランド和牛「松阪牛」の輸出が2023年度から大きく拡大しそうだ。国内需要に軸足を置いてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う訪日外国人客の減少や外食産業の低迷による価格低下で、本格的に輸出拡大をめざすことになった。
松阪牛は、松阪市とその近郊で肥育した出産経験のないメスの黒毛和牛。これまで年間7千~8千頭が食肉に加工されてきた。神戸牛、近江牛などとともに「三大和牛」と称される。高価格で取引された国内需要に対応してきたため、輸出量は少なく、「外国での知名度はないに等しい」という。
生産者や関係自治体に流通や販売の業者も加わって松阪牛関連の重要事項を話し合う松阪牛連絡協議会が1月26日に松阪市内であり、これまで年間24頭までとしていた輸出頭数を23年度は300頭、24年度以降は700頭まで拡大することを決めた。
さらに今月1日、生産者や関係市町でつくる松阪牛協議会の輸出部会が開かれ、10年以上前から輸出に力を入れてきた神戸牛、近江牛の関係者と海外での販売促進や偽装品の流通防止で協力し合うことを確認した。
兵庫県食肉事業協同組合連合会の村上真之助会長は「三大和牛産地が一緒になって世界でリードすれば明るい未来が開ける」。近江牛輸出振興協同組合の沢井隆男理事長は「世界の富裕層の胃袋を満たしましょう」とエールを送った。
松阪牛は、ブランド維持のため、三重県松阪食肉公社(松阪市)と東京都中央卸売市場食肉市場(港区)での食肉処理に限定してきた。輸出には相手国の基準を満たした適合施設として厚生労働省の認定が必要だが、県松阪食肉公社は輸出認定を受けておらず、都の食肉市場はタイ、ベトナムなどへの輸出に限られている。
このため15年、松阪牛協議会が承認すれば、他の食肉処理場で処理したものも「松阪牛」と認定するように制度を変更。17年には国内流通量を確保するためとして、年間24頭までの輸出枠が設けられた。輸出用の松阪牛証明書は、県松阪食肉公社が処理場と連絡をとったうえで発行している。
松阪牛協議会輸出部会はコロナ禍が深刻化した20年、輸出先進地に助言を求める過程で発足した。輸出本格化の手始めとして3月8日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでPRイベントを開催。兵庫県の三田食肉公社でイスラム圏用に処理した松阪牛の焼き肉やしゃぶしゃぶ、すしなどを、UAE政府やメディアの関係者、SNSインフルエンサーらにふるまう予定だ。
松阪牛協議会の伊藤浩基・輸出部会長は「外食産業の落ち込み、少子高齢化は輸出に取り組むための重要な理由。23年度からは先輩方の協力を得て本格的に輸出に取り組む」と話した。(菊地洋行)
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。