「クリスマスの腕章ハチマキ闘争」
昨年暮れ、ユーチューブに風変わりな動画がアップされた。テロップもナレーションもなく、雪景色の中をバスが走るシーンが続くだけ。バス運転手たちの静かな抗議の陰にあるのは、仲間だった黒猫への思いだ。
北海道・新千歳空港の近くに小さなバス会社がある。
昨年のクリスマスイブの日の朝だった。
運転手の江崎毅さん(56)は、大型バスに乗り込んだ。
事業所を出発するおなじみの光景だ。
ふだんと違うのは、アタマに赤いハチマキ、腕に腕章を巻いていること。
ほかの運転手たちも、腕章ハチマキ姿でハンドルを握った。
握り拳も声もあげない、静かなデモ。
「あなたが顔をさらさないとダメなの?」
会社に入って24年、弁当屋のパートに出て家計を支えてくれた妻は反対した。
それでも、もう黙ってはいられない。
コロナ禍で離職者が相次ぎ、運転手不足から路線バスは減便を迫られた。
休日出勤や残業を強いられる日々が続く。
腕章とハチマキには、白抜き文字で書かれた2文字がある。
「団結」
ふと、かつて同じ腕章をつけた「仲間」を思い出す。
いまから16年も前。
バスが行き来する車庫の片隅に、1匹の迷い猫がすみつき始めた。
労組に「加入」した迷い猫
名は「ヤマト」。
黒猫なので、有名な宅配便の会社にちなんでつけられた。
人なつっこい性格で、職場のみんなに可愛がられた。
ときにはツメにマニキュアを塗られたりした。
いたずらされても決して怒らない。
ヤマトが労組の仲間に加わったのは、団体交渉の席上、本社の役員が暴言を吐いたのがきっかけだった。
「そんなの、捨てちまえ」
役員は、ヤマトに向けて言っ…

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