事件記録はなぜ捨てられるのか あふれる倉庫と見えない活用
一般国民と司法の常識がずれている――。神戸連続児童殺傷事件の記録が廃棄されていた問題で、遺族はそう批判した。この件を皮切りに、他の重大事件でも同様の実態が次々に明らかになっている。裁判所はなぜ捨ててしまうのか。(根岸拓朗)
期限が来れば「原則廃棄」
「終わった事件の記録は廃棄待ちで、ルールに沿って捨てるだけ。現場ではそんな意識が強いのだろう」
裁判記録を管理する書記官として、大阪地裁で20年余り働いた中矢正晴さん(59)は話す。
判決の確定などで裁判が終わると、民事・少年事件の記録は裁判所が保管し、刑事事件は起訴した検察庁が保管する。中矢さんによると、民事・少年事件の記録は一審を担当した裁判所の倉庫へ。判決文以外の保存期限は、一般的な民事事件は5年、少年事件は「少年が26歳になるまで」などと定められ、期限を過ぎると外部業者が処分する。
民事・少年の重要事件には、その後も保存を続ける「特別保存」制度がある。最高裁は1992年の通達で「重要な憲法判断」「社会の耳目を集めた」事件などを対象とした。だが、中矢さんは「原則は廃棄と考えられてきた」といい、現役時代は「特別保存は議論する機会もなかった」と振り返る。
最大の要因は
裁判所は記録を「捨てたい理由」を複数抱えています。取材では同時に、裁判所の外側にも課題があることが、浮かんできました。
大きな要因がスペースの問題…
- 【視点】
裁判記録(司法文書)も公文書であり、「国民共有の知的資源」(公文書管理法第1条)だ。そうであるからには、重要な記録をきちんと保存し後世に引き継ぐ責任は、裁判所だけではなく、社会全体にある。「この問題を最高裁や法務省、法律家だけに任せてはい