国境超えたつながり弱まり、主権国家の正面からのぶつかりあいに

有料記事ウクライナ情勢

聞き手 シニアエディター・尾沢智史
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交論 「環・黒海」とウクライナ侵攻

 ロシアによるウクライナ侵攻以前にも、黒海の周辺地域では紛争が続いていました。旧ソ連圏の歴史と政治を研究する松里公孝さんは、その一因を「トランスナショナル(国境を超えた)」なつながりの弱体化に求めます。環黒海地域の歴史をたどりつつ、この戦争の本質を読み解いてもらいました。

まつざと・きみたか

1960年生まれ。東京大学教授。専門はロシア帝国史、ウクライナなど旧ソ連圏の現代政治。著書に「ポスト社会主義の政治」、共編著に「ユーラシア地域大国の統治モデル」。

 ――ロシアとウクライナの歴史の研究者として、この1年の戦争をどう位置づけますか。

 「この戦争には二つの側面があります。北大西洋条約機構(NATO)の拡大などへの反発という側面と、『分離紛争』の再燃という側面です」

 「環黒海地域で起きた2008年の南オセチアやアブハジアの紛争、14年のクリミア併合、20年のナゴルノ・カラバフ紛争は、ソ連末期からの分離紛争が再燃したという面があります。今回のウクライナでの戦争にも、やはり東部のドンバスをめぐる分離戦争が全面化した側面がある。問題は、それがNATO拡大阻止のための軍事侵攻の正当化に使われることです」

記事後半では、環黒海地域でトランスナショナルなつながりが果たしてきた役割と、戦争の先行きについて考えます。

 ――なぜ分離紛争が再燃したのでしょうか。

 「環黒海地域は20世紀に、ロシア帝国、オスマン帝国、ソ連の三つの帝国が崩壊し、そのたびに国境が極めて便宜的に引かれました。そもそも国境を民族と一致させることが難しい地域なので分離紛争が起きやすい」

 「民族がモザイク的に暮らす…

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