「かわいいね」から始まる性犯罪 子どもを懐柔、グルーミングとは?

小川聡仁
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 わいせつ目的を隠して子どもに接近し、てなずける「性的グルーミング」を禁じる改正刑法案が今国会に提出される見通しだ。性犯罪につながる行為を許さないため、被害に対応する関係機関は手口の研究・周知を始めている。

 「加害者は、子どもの孤独感など、弱い部分を利用します」

 10日、兵庫県警本部で県警が開いた研究会で、追手門学院大学心理学部の桜井鼓(つつみ)准教授が「グルーミングの実態と被害少年の心理」をテーマに語った。

 現場で性被害相談と関わる警察官や県内7市町の教育委員会の職員約100人が聴き入り、こまめにメモを取っていた。

 グルーミングはもともと「毛づくろい」の意味。性的グルーミングは、性的な目的を隠してSNSで子どもの相談に乗るなどして信頼させる行為を指す。その後、子どもが性行為を求められたり性的画像を撮られたりといった被害につながるおそれがある。

 法制審議会(法相の諮問機関)の部会は3日にまとめた刑法改正の要綱案に「性的グルーミング罪」の新設を盛り込んだ。

 わいせつ目的で16歳未満の子どもを誘惑して会うことを要求した場合、「1年以下の拘禁刑」または「50万円以下の罰金」を科すなどの内容だ。

 桜井准教授によると、グルーミング被害は対面・オンラインの両方で起こりうる。「かわいいね」などと容姿を褒められたり、悩み相談をしたりするうちに疑似恋愛に陥る場合も多い。

 中には性被害の発覚後も、子どもは周りの大人に「(相手とは)付き合っている」と話すこともあるという。何度も接した相手に心理的に好感を抱きやすくなる「単純接触効果」も影響しているとみられる。

 子どもの多くはグルーミングによる性被害を「普通のことだと思った」「何が起きているか理解できなかった」と振り返るという。

 被害に気づくポイントとして、桜井准教授は「子どものささいな動作を見逃さないことが大切」と指摘。被害に遭った子どもに養護教諭が保健室で触れようとした際、体をよけられたことから「触られて嫌なことがあったのでは」と気づいた例もあったという。

 神戸市内の小中学校約50校の相談を受ける市教委の学校支援アドバイザー根本明夫さん(73)は「目に見える非行行為は減ったが、SNSがきっかけの性被害は多く、どの学校でも多かれ少なかれあると思う」。今後講演内容を踏まえ、各校の教員にもグルーミングを伝えていくという。

 県警少年課によると、SNSがきっかけで犯罪被害に遭った県内の18歳未満の子どもは2021年で74人(前年比15人増)。全国ではここ数年、1800~2千人程度で高止まりする。

 子どもへのみだらな行為などで青少年愛護条例違反で検挙されたのは、県内で昨年72件(速報値)。20年が35件、21年が59件と増加傾向にあり、SNSがきっかけの被害が目立つという。

 同課の池添塁次席は「警察も親も認知していない被害も多いとみられ、統計の数字は氷山の一角。SNS上のサイバーパトロールや被害相談に力を入れたい」と話す。(小川聡仁)

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