第1回平和の祭典に「ロシア選手の居場所ない」 あるウクライナ代表の思い

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稲垣康介
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 「まさか、全面戦争なんてロシアも仕掛けないだろう」

 ウクライナ国内には根拠のない楽観論もあった。だが、2022年2月、北京冬季オリンピック(五輪)の開幕が迫るころにはロシア軍20万人が国境付近に集結していると耳にした。

 スケルトンのウクライナ代表、ウラジスラフ・ヘラスケビッチ(24)は世界に危機を呼びかけるために、コーチでもある父と、あるプランを実行に移すことを決めた。

 母国選手団のほかの誰とも相談はしなかった。

 2月11日。北京冬季五輪のスケルトン男子に出場し、滑走後に「NO WAR IN UKRAINE(ウクライナに戦争はいらない)」と書いた紙をテレビカメラに見せた。

 その直後、メディアから問い合わせがきた。

 悲惨な戦禍を防ぎたい彼の叫びはしかし、実を結ぶことはなかった。

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1年。

 「今起きているのは悪夢だ。知り合いのアスリートが死んだ。将来有望だったスポーツ好きの子どもも、命を落とした。21世紀にこんな悲劇が日々繰り返されるなんて信じたくない」

 ヘラスケビッチはオンラインのインタビューで、悲痛な胸の内を明かした。

 空爆が始まった昨年2月24日は故郷のキーウにいた。午前5時ごろ、爆発音で跳び起きた。ニュースを見て全面戦争が始まったと悟った。しばらくして、150キロ離れた街に避難した。

ウクライナ侵攻は「プーチンの戦争」であり、ロシア国民は独裁者に逆らえないという一部の論調に対し、「それは違う」と言い切るヘラスケビッチの真意とは。IOCもバッハ会長もロシアに甘すぎるとも指摘します。

 兵役経験がない大学生の自分…

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    中川文如
    (朝日新聞スポーツ部次長)
    2023年2月27日8時0分 投稿
    【視点】

    ヘラスケビッチ選手の心の叫びに触れ、ある言葉を私は思い出しました。 「目の前に5億円を積まれても、本能的に拒否できる人間になれ。そのためにラグビーをやっとるんや」 声の主は、1960~80年代にラグビーの日本代表や早稲田大学を率いた名将

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    後藤太輔
    (朝日新聞スポーツ部次長=子ども、社会)
    2023年2月27日11時58分 投稿
    【視点】

     国家などの力のあるものが、スポーツ選手個人の大会に参加する権利を奪ってはいけない、という原則があると思います。私も、個々のアスリートが五輪に参加できる道はないだろうか、と考えてきました。  ただ、IOCが、選手に罪はないとしてロシア選手

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