28日は世界希少・難治性疾患の日 薬の開発、厚労省が治験支援へ
2月28日は「世界希少・難治性疾患の日(Rare Disease Day)」。2008年にスウェーデンで始まり、今ではこの日に世界中で病気への理解を広げる活動が催されている。
患者数が少ない希少疾患や難治性の病気の大きな課題のひとつに、臨床試験(治験)の参加者を集めるのが難しく、治療薬の開発が進まないことがある。こうした中、日常的に患者を診察する中で得られる医療データを活用することが模索されている。厚生労働省も来年度から、本格的に支援を始める。
薬の開発のための治験では通常、数百~数万人規模の参加者が必要になる。薬を使う集団と、有効成分が含まれていない偽薬を使う集団とに参加者を分け、実際に使用した効果などを比較する。
だが、患者が少ない病気では、その参加者を募るのが一苦労だ。命にかかわる病気の患者に偽薬を使うことへの倫理的な課題も指摘されている。
こうした状況で、注目されているのが、日常的な診察時の医療データで、「リアルワールドデータ(RWD)」と呼ばれる。
厚労省は21年、偽薬を使う集団の代わりに、RWDを活用できるという見解を示した。ただ、この手法で承認されたのは、国内ではいまのところ、結腸・直腸がんの薬の1例のみで、普及していないのが現状だ。
厚労省は来年度から、希少疾患や難治性の病気のRWDを集めた「レジストリ」をつくる研究機関を4カ所ほど募集。医薬品の承認審査を担当する医薬品医療機器総合機構(PMDA)と連携し、そのためのガイドラインをつくる。来年度の予算案に3300万円を計上した。
国内でレジストリづくりに携わる国際医療福祉大の辻省次教授(神経内科学)は16年から、難治性の病気「多系統萎縮症」の患者の情報を集めている。筋肉の硬直や運動障害などを起こしていくが、いまのところ対症療法しかない。
患者に6カ月ごとに電話で症状などを聞き取り、年1回は医療機関を受診してもらって運動機能などを確認。どのくらいの期間でどのように悪化するのかのデータが、これまでに546人分集まった。
ただ、RWDを治験に使うには精度管理が課題、と辻さんは指摘する。医薬品の承認審査では、有効性や安全性を調べるため、厳密なルールで集めたデータが必要となる。審査に耐えられるためには、どのようなデータを集めればよいのか、研究者にとっては不明瞭な部分が多く、ガイドラインなどの必要性が指摘されていた。
辻さんは「歩けなくなるのに何年、食べられなくなるのに何年、という長期にわたる病気で、治験で何年間も偽薬を使うのは患者にとって耐えがたい」と指摘。「治験が始まってからレジストリを用意するのは難しい。あらかじめ使えるレジストリをつくる取り組みが必要だ」と話す。(市野塊)
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