運命の分断、生まないために 白血病の娘を支えた母が作ったものは
映画「いちばん逢(あ)いたいひと」が24日、全国で封切られた。プロデューサーは、白血病を患った長女とともに闘った母親だ。「一人でも多くの人にドナー登録して欲しい」という思いを広げたいと、たった一人で制作会社を立ち上げ、12年かけて実現させた。15日には山形市を訪れ、キャンペーンをした。
映画は白血病になった11歳の女の子と、同じ病で娘を亡くし、その後少女への骨髄提供者(ドナー)となった男性が主人公。2人の姿を通じて人と人のつながりや命の大切さを訴える。
映画化を企画したのは仙台市若林区の堀ともこさん(55)。2009年、当時中学1年だった長女が急性リンパ性白血病と診断された。風邪にもかからない子だった。医師の言葉をうそだと思いたかった。無菌状態の病室で治療を受ける長女を見守る日々が続いた。
この病気の治療法は、抗がん剤などのほか、健康な人から骨髄や末梢(まっしょう)血幹細胞を提供してもらうこと。長女には幸い、白血球の型が適合するドナーが見つかり、移植を受けた。リハビリを経て回復し、今は会社員として働く。
同時期に同じ病で入院して隣の無菌室にいた、長女より2歳上の少女の運命は違った。ドナーが見つからず、亡くなった。堀さんは、仲良くなった少女の母親から聞かされた。
ドナー候補が非血縁者の場合、白血球の型が適合する確率は数百から数万分の1という。「もっと多くのドナー登録者がいれば、彼女にも適合する人が見つかり、助かったかもしれない」と堀さん。
ドナー登録が増えてほしいと、思いついた手段が映画だった。11年春、東京で制作会社をつくった。映画は全くの素人。映画監督の付き人から始め、次第に思いを理解してくれる人を増やしていった。21年5月、今回指揮を執った丈監督が監督と脚本を引き受けてくれた。
映画の主演はアイドルグループAKB48の倉野尾成美さん。若者に人気のある女性を起用したのには狙いがある。骨髄を提供できるのは55歳まで。政府広報室によると22年3月末現在、骨髄バンクのドナー登録者は約54万人いるが、半数以上が40~50代だという。堀さんは「10年後にはドナーがいなくなってしまう」と危機感を抱く。
キャンペーンで山形市を訪れた堀さんは15日、ラジオ番組の収録で作品にかけた思いを語った。「生きる勇気を与える映画になったと思う。たくさんの人に見て欲しい」
1時間46分。山形県内では「MOVIE ONやまがた」「イオンシネマ米沢」で上映されている。(須田世紀)
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