雪室でビール 熟成実験中 みなかみの醸造所

加藤真太郎
[PR]

 群馬県みなかみ町の「群馬みなかみほうだいぎスキー場」。そのメインゲレンデわきに、高さ3メートルほどの大きな雪山がお目見えした。「キッズランド」の近くだから、ちびっこたちの遊び場かと思いきや、近づくと立て看板に「雪室ビール熟成中」とある。全国から地域発のクラフトビールを集め、雪室の中で低温熟成する実験の真っ最中だ。

 2月17日午後、23本のビール樽(だる)を載せたスノーモービルがメインゲレンデを横切り、雪山の前にやってきた。雪室は直径2~3メートル、高さ約1メートル。中にビール樽を一つ、二つと並べると、最後は投雪機を使って入り口を埋め、ショベルカーで固めて「密封」した。

 発案したのは、水上温泉街で奥利根の水を使ったクラフトブルワリー「OCTONE(オクトワン) Brewing(ブルーイング)」を営む竹内康晴さん(51)、美和さん(45)夫妻。

 醸造を担当する康晴さんが、みなかみで雪が減りつつあることに着目。「雪不足は夏の水不足につながる。環境変動から雪山を守るために、雪の魅力を発信したい。雪を使って何かできないか」と考え、同スキー場に協力を呼びかけた。

 同ブルワリーは、全国各地のローカルブルワリーでつくるグループ「BREWING(ブルーイング) FOR(フォー) NATURE(ネイチャー)」の一員。グループは、それぞれの地域の自然環境や消費活動のあり方を考え、環境問題を解決するため行動している。

 秋田、群馬、埼玉、東京、静岡の8ブルワリーの計230リットルを熟成。「OCTONE Brewing」は、ベルギースタイルのビール3種類を入れた。

 ビールが凍らないようにスキー場のスタッフ3人が丸1日かけ、ビール樽と壁との距離が適切になるよう手掘りで雪室を仕上げた。

 スキー場のある藤原地区は全国有数の豪雪地帯。朝晩を中心に零下となる厳しい冷え込みが続くが、雪室は保温効果があり内部は0度前後に保たれるという。

 康晴さんはこれまで、「日本一のモグラ駅」として有名なJR上越線土合駅(同町)で、クラフトビールの熟成を提案。2020年12月から、地下約70メートルの下りホーム「運転事務室」で長期熟成が始まった。

 ただ、雪室での挑戦は今回が初めてだ。康晴さんは「やってみないとわからないが、雑味がとれて洗練された味になるのでは。おいしくなってくれたらいいですね」と期待を寄せる。

 3月11日に同スキー場で開かれるイベント「スノーエイジド・ビアキャンプ」では熟成したビールを来場者に限定販売し、「開栓ツアー」も実施する予定だ。クラフトビールの売り上げの3%は、「地球には冬が必要だ」とうたい雪山を気候変動から守る活動に取り組む保護団体「POW JAPAN」に寄付する。

 スキー場運営に関わるオープンハウスグループ(東京)は「雪と地域の自然への感謝を共有する機会にできれば。持続的な地域活動が行える環境づくりの循環を生み出したい」と話す。(加藤真太郎)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません