トランプ氏の「口止め料」疑惑とは 「有罪とは限らない」の指摘も
トランプ前米大統領が、ニューヨーク州でマンハッタン地区検察官の捜査の末に起訴された。焦点となる元ポルノ女優への「口止め料」をめぐる疑惑とは何か。大統領経験者が刑事被告人になるという前代未聞の裁判は今後、どう進展するのか。
検察側は、トランプ氏と不倫関係にあったとされる元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズ(本名=ステファニー・クリフォード)氏に対する13万ドル(1700万円)の「口止め料」をめぐって捜査を続けてきた。2016年の大統領選の途中で、トランプ氏の顧問弁護士だったマイケル・コーエン氏が払い、さらにトランプ氏がコーエン氏の支払い分を補塡(ほてん)した構図だ。これが違法な選挙献金だった可能性が指摘されている。
「口止め料」の存在は、18年には明らかになっていた。トランプ氏とたもとを分かったコーエン氏は連邦捜査当局との司法取引に応じ、選挙資金法違反のほか脱税などの罪を認め、18年12月に禁錮3年の実刑判決を言い渡された。この際、検察側は「トランプ氏の指示によって支払われた」という趣旨の書面を裁判所に提出しており、実質的な「共犯」だと主張した。
ただ、トランプ氏の刑事責任が問われることはなかった。米司法省には「現職大統領は訴追しない」という内規があり、トランプ氏が21年に任期を終えてからも、連邦検察当局が捜査をした様子はうかがえない。
今回、マンハッタン地区検察官はコーエン氏が有罪を認めた連邦法ではなく、ニューヨーク州法に違反したとしてトランプ氏の起訴に踏み切った。どのような形で違法性を立証するかは不明だが、現在は刑期を終え、トランプ氏を批判する立場のコーエン氏の供述が重要になるのは確実だ。
コーエン氏は過去にも「ウソをついてきた」と認めた経緯があり、トランプ氏側が証言の信用性をめぐって争うのは必至だ。また、複雑な法解釈が必要になるため、米メディアからも「有罪になるとは限らない」と指摘が出ている。
トランプ氏をめぐっては、主要なものだけでもほかに三つの疑惑がある。21年1月6日に支持者が連邦議会議事堂を襲撃した事件への関与と、大統領から退任後にフロリダ州の私宅に機密文書を持ち出したことについては、司法省が指名した特別検察官が捜査を続けている。さらに、ジョージア州では地元の地区検察官が、20年の大統領選の選挙結果を覆そうとした事件について捜査している。
これらの捜査がいつごろまでかかるかは、明らかでない。ただ、大統領在任中の行動に直接関わっているだけに、影響が「口止め料」をめぐる事件より重大だとの見方がある。(ニューヨーク=中井大助)
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