「政権の延命、自己目的化の果て」 内田樹さん、防衛予算成立に思う

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 岸田政権は、過去最大となる6兆8219億円の防衛費を盛り込んだ新年度予算を3月28日に成立させた。今後5年間で防衛費をこれまでの1・5倍に拡大し、増税して国民に負担を求める方針だ。なぜ政権は、これほど性急に防衛予算の拡大に進むのか。思想家で神戸女学院大学名誉教授の内田樹(たつる)さん(72)に論考を寄せてもらった。

「岸田首相、政策選択の自由ないと知ったのでは」

 今回の防衛費増額の背景にあるのは岸田政権の支持基盤の弱さだと思う。彼がしているのは自民党の鉄板の支持層を裏切らないことと米国に徹底的に追随すること、この二つだけだ。日本の将来についてのビジョンは彼にはない。

 今回の防衛予算や防衛費をGDP比2%に積み上げるのも、米国が北大西洋条約機構(NATO)に求める水準に足並みをそろえるためであって、日本の発意ではない。

 国民がこの大きな増額にそれほど違和感を覚えないで、ぼんやり傍観しているのも、安全保障については、基本戦略は米国が起案し、それを日本政府は多少押し戻すか丸のみするかしかしてこなかったからである。その点では戦後日本政府の態度は一貫しており、岸田政権は別に安全保障政策の「大転換」をしたわけではない。政権によって米の要求に従う度合いが違うだけであり、そこにはアナログ的な変化しかない。だから、誰も驚かないのである。

 岸田首相は政権基盤が弱い。だから、米国からの「承認」が彼の政治権力の生命線となる。ホワイトハウスから「米国にとってつごうのよい統治者」とみなされれば政権の安定が保証される。少しでも「米国に盾突く」そぶりを示せば、たちまち「次」に取って代わられ、政権が短命に終わるリスクがある。

 岸田政権にはとりわけ実現し…

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