長崎県勢史上初の2校同時出場 あこがれの甲子園で学んだこと
長崎県勢史上初の2校同時出場を果たした選抜大会。2年連続出場の長崎日大(諫早市)は初戦で、夏春連続出場の海星(長崎市)は第2戦で、それぞれ惜敗した。30年ぶりの「1勝」をめざした長崎日大と、昨夏の2勝を超える「3勝以上」を狙った海星。ともに目標には届かなかったが、あこがれの聖地で選手たちは多くのことを学んだに違いない。(三沢敦)
選抜最多出場の龍谷大平安(京都)に3―4で惜敗した長崎日大。試合後、インタビューに応じた選手たちが挙げた敗因は「油断」だった。
1―1で迎えた七回、鮮やかな重盗で勝ち越しに成功した。2死一、三塁で一走・栗山由雅(ゆいが)選手(3年)が二盗。送球の隙を突き、三走・加藤太陽(あさひ)選手(2年)が絶妙のスタートを切って本塁へと駆け込んだ。続く広田樹大(きだい)選手(3年)が適時打を放ち、栗山選手も生還。一気に点差を広げ、アルプススタンドは沸き返った。
だがその裏。広田選手が打者2人を簡単に打ち取った後に潮目が変わった。連打を浴びて一、三塁。次打者に投じた2球目がこの日2度目の暴投となり、1点を失った。悪い流れは止められず、その後も3連打を許して2失点。あと一つのアウトが取れず、西尾海純(みいと)選手(2年)にマウンドを譲った。
広田選手によると、痛恨の暴投はマウンドにできたくぼみで足を滑らせたのが原因。踏み込む足の位置が相手投手と同じだったため地面が削れていたという。打ち取ったかにみえた飛球が安打になるなど不運な面も重なった。
ただ、こうしたアクシデントはけっして珍しいことではない。突然の「乱調」はなぜ起こったのか。
「2死に追い込み、自分の中に油断があったかも知れない」。加藤選手も「下位打線になって、何とかなると油断したことがミスにつながったと思う」と話す。
歓喜の後に訪れた「魔の七回裏」。初出場で8強入りした1993年以来の初戦突破をめざした選手たちは、昨春と同じ「宿題」を持ち帰ることになった。
1年前。同じ目標を掲げて挑んだチームは九回2死まで追い込みながら追いつかれ、延長十三回タイブレークの末に敗れた。その試合でスタメン入りした平尾大和(やまと)主将(3年)を中心に「一球を大事にしよう」と話し合い、練習でも完璧を求め、ミスをゼロに近づけてきた。それでも「隙」は埋められなかった。
ただ七回を除けば、試合運びはそつがなかった。二回に最初の暴投で先制を許したが、すぐに三回、平尾主将の適時打で取り返す。つなぐ意識でバットを短く握り、コンパクトに振り抜いた会心の一打だった。七回に救援した西尾選手は気迫の投球でピンチをしのぎ、その後も追加点を許さなかった。延長十三回のタイブレークで緊張の糸が切れたかのように4失点と大崩れした昨春とは違い、僅差(きんさ)の敗戦だった。
「一球の重さ」を改めてかみしめた選手たちがこの夏、どんな戦いをみせてくれるか。楽しみだ。
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「中盤までに3点目を取れなかったことが敗因」
2―3で敗れた広陵(広島)戦後のインタビュー。海星の加藤慶二監督(48)は「あと1本」に泣いた試合をこう振り返った。
明治神宮大会準優勝の強豪と激突した第2戦。序盤に主導権を握ったのは海星だった。
二回、平尾幸志郎選手(3年)が左前打で突破口を開くと次打者が犠打。2死二塁とした後、井坂陸翔(りくと)選手(3年)の打球が相手の失策を誘った。平尾選手が生還して先取点。二塁に進塁した井坂選手も、続く吉田翔選手(3年)の左前適時打で本塁へ。瞬く間に2点目を加えた。
その後も再三、チャンスは巡ってきた。だが、尻上がりに調子を上げる相手投手に要所を抑えられてゼロ行進。好投するエース吉田選手を打線が援護できず、反撃を許してしまった。
とりわけ惜しまれるのは四回の攻撃だろう。四球と井坂選手の右前打などで1死二、三塁と好機を広げたが後続が凡退。加藤監督が「僕の采配ミス。例えばスクイズにしても何にしても仕掛けられなかった」と悔やむ場面だ。
ただ、様々な反省点があるにせよ、強打のチームを相手にロースコアの接戦に持ち込めたのは大きな収穫に違いない。
16強入りした昨夏に比べて打撃力で劣るチームは「機動力」に磨きをかけてきた。「走れる選手が多いので足を生かしたい。四球で出て、盗塁して、バントで送って。ノーヒットでも得点できる野球が武器」。開幕前、田川一心主将(3年)は語っていた。
社(兵庫)との第1戦はその機動力を存分に発揮。俊足の選手らが果敢に本塁を突き、5―1と快勝した。広陵戦では盗塁の失敗や失策もあったが、ボールを見極め、ファウルで粘り、五回までに相手投手に約100球を投げさせて揺さぶる作戦は見事だった。
吉田選手の投球術も光った。直球は120キロ台にとどまるが、チェンジアップとカーブを織り交ぜて緩急をつけ、相手に的を絞らせなかった。社戦は4四球と制球にやや苦しんだが、広陵戦では修正。ストライクが先行する投球が戻り、「広陵のボンズ」の異名を持つ強打者、真鍋慧(けいた)選手に無安打、1四球と仕事をさせなかった。救援の高野颯波(そな)選手(3年)も2戦ともに健闘。広陵戦では七回、3点目を奪われた直後のピンチを三振で断ち、「火消し役」をしっかり務めた。
昨夏の第3戦のように球場の雰囲気にのまれてミスを重ねることもなく、地に足をつけたプレーでスタンドを沸かせた選手たち。「のびしろ」のあるチームはこの夏、さらなる成長を見せてくれるはずだ。
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