耕論 戦時の動員どう考える
ウクライナ侵攻では、ロシア政府が戦場へ市民を次々に動員し、ウクライナでも総動員令が発せられました。国家による戦時の動員がいかに過酷なものか、衝撃を受けた人が少なくなさそうです。日本の憲法や法律は動員についてどう規定しているのでしょう。市民が戦場に送られる可能性はあるのでしょうか。防衛法学に詳しい憲法学者の山中倫太郎さん(防衛大学校教授)に聞きました。
日本にはない徴兵制 その理由とは?
――ウクライナとロシアは、どちらも徴兵制を持っている国ですね。他方、日本には徴兵制がありません。
「徴兵制は日本国憲法に違反するというのが日本政府の見解です。『意に反する苦役』を禁止した憲法第18条に反すると説明されています」
やまなか・りんたろう
1973年生まれ。防衛大学校教授。専門は防衛法学、緊急事態法学。共著に「在外邦人の保護・救出」など。
――その見解が将来変わる可能性はないのですか。
「2015年に安倍晋三首相(当時)が参院で『いかなる安全保障環境の変化があろうとも』と強調しつつ、違憲という解釈を変更する余地はないと答弁しています」
――戦時の動員という言葉から多くの人が想起するものの一つは、戦前にあった国家総動員法かもしれません。
「国家総動員法のような法律も、18条や個人の尊重を定めた13条に違反するというのが政府見解です。人を強制的に徴兵・徴用する制度は、憲法で禁止されているのです」
「自衛隊は志願制の組織です。入隊は本人の自由意思に基づいています」
日本の法律の中にもある動員の規定
――そもそも今の日本の法律の中に「戦時」や「動員」という言葉はあるのでしょうか。
「戦時という言葉も動員という言葉も基本的に使われていません。戦前に使われていた関係から援護法令などに例外的に残っているだけです」
「とはいえ、今の法律の中に動員と関係するものがないというわけではありません」
――どんなものがあるのでしょう。
「たとえば、有事には自衛官…

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