第1回自宅が一瞬で倒壊、家族は奪われた 血のにじむ手で14歳が握る鉛筆
午後の日差しが差し込む病院の一室。長い黒髪の少女は、ベッドの上で数学の教科書を開いていた。
数式を見つめる黒い大きな瞳は真剣だ。鉛筆を握る右手の包帯には、点滴をするときにできたとみられる血がにじんでいる。
「勉強のおかげで退屈しないでいられるんです」
中学生のマヒヌール・ヤブスさん(14)は、あの日の記憶を打ち消すかのように、静かな口調で話した。
あの日――。
2月6日午前4時17分、トルコ南部の故郷カフラマンマラシュ市は、大きな地震に襲われた。
「助けて!」「誰か!」
ハンバーガー店やカフェが入居する高層マンション群が、激しく揺れる。子どもたちや大人の男女の悲鳴が響きわたった。
轟音(ごうおん)と共に、12階建てのマンションが次々と崩壊した。あたり一帯が土ぼこりに包まれた後、悲鳴は聞こえなくなった。
マグニチュード(M)7・8の大地震だった。
マヒヌールさんは、金融アドバイザー業の父アフメットさん、母アスマンさん、兄オヌルさん(16)、妹ジャンスさん(8)の5人家族。崩壊したマンションの11階に住んでいた。
気がつくと、がれきの中に閉じ込められていた。
自分の体のすぐ上に妹の体があった。
父と兄も、近くに見えた。
【連載】崩壊した街から トルコ・シリア大地震1カ月
2月6日のトルコ・シリア大地震では、5万人以上が犠牲となりました。最愛の人や家を失い、絶望を深める市民。一方で、生きる希望を見いだし、前へと進む人もいます。発生から1カ月。市井の人の今を報告します。
7時間後の救出 集中治療室へ
外の気温は0度近く。助けは…
- 【視点】
トルコ・シリア大地震から1カ月。地震直後の恐怖や衝撃から生じる反応を経て死別や日常の喪失がもたらす悲嘆、避難所や仮設住宅での生活が象徴する生活上の困難がもたらすストレスなどがマヒヌールさんの語りから見て取れます。マヒヌールさんに限らずこれは