「テロよりも…」 柏崎刈羽原発、自治体担当者が訴えた大きな課題

岸田政権

戸松康雄 岩沢志気
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 原発が立地する15地域(福島を除く)のうち6地域で、広域の避難計画を含めた過酷事故時の「緊急時対応」ができていない。東京電力福島第一原発事故からまもなく12年。岸田政権が「原発回帰」の動きを強めるなか、複合災害への対応など事故の教訓から生まれた原子力防災の課題は積み残されたままだ。地元からも懸念の声が上がる。

 世界最大級の東電柏崎刈羽原発が立地する新潟県。2月7日、自治体の防災担当者が、東電や原子力防災を担当する内閣府などと意見交換をする年1回の会議がオンライン形式で開かれた。議論が集中したテーマが「大雪の際に事故が起きたら避難できるのか」。

 小千谷市の担当者は「住民避難や屋内退避中の物資供給に非常に大きな影響が出ると予想される。(大雪が降れば)避難行動が難しくなるが、どう考えるか」と質問した。

 長岡市の担当者は「住民にとってテロより大雪の方が身近な脅威であり、大きな不安、リスクだ」と訴え、大雪の際の避難を検証するよう県に求めた。

 原発の過酷事故に備え、半径30キロ圏内にある自治体は避難計画をつくり、国との協議会で「緊急時対応」としてまとめ、首相が議長の会議で了承を受ける。だが、43・7万人が対象となる柏崎刈羽地域はできていない。その大きな要因が大雪の際の対応だ。会議の2カ月前、この問題が現実のものとして浮かび上がる事態が起きていた。

 昨年12月18日、原発がある柏崎市に雪が積もり始めた。市内を走る北陸自動車道が最長52時間、並行する国道8号も38時間通行止めに。国道は22キロにわたって車が立ち往生した。柏崎市は、原発事故時に市民約7万9千人のうち約6万人が西に避難すると想定。北陸道と国道8号が使えないと、その根本が揺らぐ。

 「こんな状況で原発事故は起こらないでくれよ、と冗談でなく、祈るしかないという感じでした」。桜井雅浩市長は1月の記者会見でそう語った。

 新潟の会議から3日後の2月10日、政府は「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定した。原発の新規建設や運転期間の延長を認め、2011年の東電福島第一原発事故後の原子力政策を大きく転換。すでに再稼働した10基に加え、今夏以降に柏崎刈羽6、7号機を含む7基の再稼働を進めることも盛り込んだ。岸田文雄首相は「国が前面に立ってあらゆる対応をとる」と異例の発言もしている。

 東電も10月に7号機の再稼働を念頭に置く。テロ対策の不祥事で原子力規制委員会が事実上の運転禁止を命じたが、春にも解除する可能性がある。再稼働への事実上の条件は、地元同意と、その前提となる広域避難計画を残すのみとなる。

 東電が2月11日まで県内5カ所で住民向け説明会を開いた。延べ71人が質問した。最後に立った女性が、こう訴えた。「大雪で避難をできない人間を守ることができないなら、再稼働しないことを求める」

 東電新潟本社の橘田昌哉代表は「避難計画は我々がつくるものではないので『丸投げ』と映ってしまうかもしれませんが、事業者として実効性が高まるように、最大限のことを尽くしてまいりたい」と答えた。(戸松康雄、岩沢志気)

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