バックカントリーの誘惑に潜む危険 本質は雪山登山、知識と経験必須

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高億翔
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 「さっき雪崩があって、10人くらいが雪に埋まっているらしい」

 1月29日の夕方だった。休日で非番だったところ、長野総局の上司から電話で一報を受けた。

 山岳地帯の手つかずの雪山であるバックカントリー(BC)でスキーヤーらが遭難、という情報だった。「10人」という規模感に圧倒され、「大事故だ」と直感した。

 すぐに地図を手に、現場となった長野県小谷(おたり)村に長野市内から急いで向かった。現地では、地元の警察署や宿泊施設への取材などを担当した。

 雪崩が起きたのは、北アルプスの後立山(うしろたてやま)連峰・白馬乗鞍岳(標高2469メートル)の山中にある天狗原(てんぐっぱら)の東側斜面(約2100メートル)だった。県警への取材などによると、40度ほどの急斜面。スキー場では上級者コースに相当する場所だ。

 起きた雪崩は「表層雪崩」と見られる。固まった雪面の上に大量の新雪が降り積もると、わずかなショックでも滑り落ちることがある。これが表層雪崩の仕組みだ。

 小谷村では27日夜に大雪警報が発令され、28日朝にかけて一晩で約40センチの積雪があった。

 日本雪崩ネットワークがホームページで公開している情報によると、28日の白馬エリアの標高2千メートル前後の「森林限界」は、5段階中で高い方から二つ目の「雪崩の危険性が高い」とされた。

 事故があった29日は1ランク下の「留意」とされていた。ただ、前日までに降り積もった雪を考えると、表層雪崩が発生しやすい状況だったのだろう。

 事故発生直後は情報が錯綜(さくそう)したが、雪崩に巻き込まれたのは4人だった。結果的に外国人スキーヤー2人が命を落とした。

 長野県警の山岳遭難救助隊12人は、現場に近い栂池高原スキー場を起点に30日早朝から山に入り、遭難した2人を発見した。

 位置を示す発信器であるビーコンを付けていたので、比較的発見は早かったという。ただ、遭難したグループにガイドはおらず、登山計画書の提出もなかった。

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