黒海上空の国際空域で14日、米軍の無人偵察機「MQ9」がロシアの戦闘機スホイ27と衝突し、落下しました。F4戦闘機のパイロットだった杉山良行・元航空幕僚長は、ロシア軍がウクライナ侵攻で航空優勢をとれていない理由がこの事件からわかると指摘します。
――事件はクリミア半島から約72キロ離れた黒海上空の国際空域で起きました。
記事のポイント①低速時こそ高度な飛行技術がいる②航空優勢の確保に必要なのは、相手の「目」「神経」「手」の破壊③ロシアの低空飛行技術を軽視するのは、航空戦略の意義づけが異なる可能性
ロシアは「米軍機がロシアが設定した特別な空域に侵入した」と主張しています。ロシアによるウクライナ侵攻を巡っては、北大西洋条約機構(NATO)諸国は、ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定していません。ロシアを刺激して戦争に発展することを避けるためです。
ロシアが主張する特別空域とは飛行禁止区域の意味だと思います。ロシアは状況が緊迫することを承知のうえで、飛行禁止区域を設定しているのでしょう。そのくらい、黒海周辺でのNATO諸国による情報収集活動がロシアの脅威になっているのだと思います。
――米側はロシア軍戦闘機の行動を「プロ意識に欠ける(アンプロフェッショナルな)行動だ」と批判しています。
ロシア軍の「アンプロフェッショナル」な行動とは
操縦技術が未熟だったり、常識から外れたりするようなむちゃな飛行について、私たちは「アンプロフェッショナル」という表現を使います。
速度250キロくらいで飛行するMQ9のように、低速度で飛行する目標に対応する場合、パイロットは高度な技術が要求されます。F4戦闘機でいえば失速寸前の速度にあたり、急激な軌道変更ができない状況にあるからです。エンジンのパワー操作にも熟練の技能が要求されます。
また、低速度の目標に接近する場合、経験の少ないパイロットにとっては目標が急速に近づくことになって判断が難しく、危険な状態に陥ることがあります。
空中には目標との速度差を測るような目印もありません。ロシア空軍のパイロットの技量が未熟だったため、今回の事故が起きたと思われます。
――ロシア空軍の技量に問題があるのですか。
ウクライナ侵攻で、ロシア軍が航空優勢を取れない理由の一つがそこにあります。例えば、地対空ミサイルなど敵の防空戦力への有効な対抗策の一つは低空飛行だとされています。
「ロシアは有効な低空飛行ができない」
航空優勢獲得のためには、相…

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