「この本いいね」 ひとり出版社の思いつなげた「じゃむパン革命」

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記者コラム 「多事奏論」 大阪編集局記者・河合真美江

 思いがけない手紙が届いた。小花模様の便箋(びんせん)4枚に、小さな文字がおしゃべりするように並ぶ。10年余り前に取材で知り合った新潮社の社員からだった。

 本も入っていた。自分の会社の本ではない。退社した編集者がひとり出版社を始めて作った最初の本。それも「がんこな人間だけれどいい仕事をします」と情のこもる推し方で。元同僚に頼まれたわけではないのに、ひとり広報活動をしていた。

 「じゃむパンの日」。ノートを模した素朴な装丁だ。あっ。その編集者も著者も知っていた。著者の赤染(あかぞめ)晶子(あきこ)さんは2010年に「乙女の密告」で芥川賞を受賞した。その取材の席にいたのが版元となった編集者、加藤木(かとうぎ)礼さんだった。

 京都府内に暮らしていた赤染さんには、新聞に何度かエッセーを書いてもらった。つつましやかに話す、はにかみ屋さん。書くものは観察眼鋭く、おかしみにあふれ、胸の奥底をくすぐった。

 だが17年、赤染さんは病気…

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