第11回高齢女性に許されるのは、母性愛だけなのか 殺し屋が覆す女性の役割
「ノワール×おばあちゃん?!」。そんな帯が目をひくク・ビョンモさん著『破果』(小山内園子訳)は、異例づくしの韓国小説だ。主人公は65歳の女性で、職歴45年のすご腕の殺し屋。「守るべきものはつくらない」を信条に生き抜いてきた彼女が老化による心身の揺らぎを受け入れながら、最後の闘いに挑むというノワール小説だ。
なぜ、主人公は高齢女性でなければならなかったのか。この物語で攪乱(かくらん)しようとした「女性の役割」とは。ク・ビョンモさんに書面インタビューで聞いた。
冷蔵庫で傷んだ桃を見つけて
――『破果』は昨年末、日本でも出版され、「高齢女性を斬新に描き出した」という評価とともに話題を集めています。こうした主人公はどのように思いついたのですか。
以前から漠然と、殺し屋が主人公の小説を書いてみたいと思っていました。しかし、若い女性が殺し屋として登場するというストーリーは特に映画でよく見かけたりもします。強くて、機敏で、他人を簡単に制圧してしまう殺し屋の話では、これまで書かれてきたものとあまり変わらず、悩んでいました。そんな時、冷蔵庫の掃除をしていて、野菜室に入れっぱなしにしていた桃がすっかり傷み、腐っているのを見つけました(その場面は小説の中に登場しています)。その古く傷んだ果物を発見した時、自分が探していた主人公は、これまで描かれてきた殺し屋とは違う、力を失って見栄えもしない主人公なんだと気づきました。女性はいつでも弱者ですが、それに高齢という条件が加わると、さらに困難になるという現実が思い浮かんだのです。
――韓国メディアによるインタビューでは、高齢で女性であるということは二重の意味で社会から疎外される、「他者の他者」だとおっしゃっていました。
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