日銀は「酒」を片付けられるのか 誰がやっても厳しい局面で総裁交代

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記者解説 編集委員・原真人

 「我々の仕事は宴たけなわでパーティーの酒を片付けること」。かつてそう語ったのは米国の中央銀行にあたる米連邦準備制度理事会(FRB)の元議長ウィリアム・マーチンである。1951年から20年近く議長を務めた。景気は過熱しやすく、人々はバブルに酔いやすい。たとえ嫌われても、いち早く冷や水を浴びせる。それが中央銀行の仕事だという。

 世界の中銀に共通するこの教訓も、いまの日本銀行には忘れ去られた存在だろう。なにしろ飲みきれず大量に余っているのに、まだ酒を出し続ける給仕係のような仕事ぶりなのだ。

 日銀総裁が4月、10年ぶりに交代する。黒田東彦総裁(78)は在任最長の総裁として歴史に名をとどめるが、本人に達成感や晴れやかな気分はどこまであるだろうか。デフレは貨幣的現象なので金融政策で解決できる――。黒田総裁は10年前に2%のインフレ目標を掲げ、「2年で達成してみせる」と宣言した。ところが10年たってもゴールに至らず、紙幣(電子データも含む)を刷って宴(うたげ)を盛り上げる「国家的な社会実験」は失敗に終わった。

 足元では世界的なインフレの波が日銀を追い込む。エネルギー高騰で日本でも40年ぶりの物価高が起きているのに、賃上げが追いつかず国民生活は厳しい。それなのに物価を上げるための緩和策を続け、「物価の番人」としての役目は機能不全に陥っている。

 先進国の中銀はインフレ対策のためにこぞって金融引き締めを急ぐ。日銀だけが逆方向の政策を続ける異常さが際立っている。この動きに目をつけ、海外の投資ファンドが日本国債や円を売り浴びせる場面もめだつ。それでも黒田総裁は最後の政策決定会合後の10日の会見で、「金融緩和は成功だった」と自賛した。

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