IPCC「大幅削減の手段ある」 1.5度目標、望みつなぐには

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関根慎一 編集委員・石井徹
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 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が20日公表した統合報告書でこれまで以上に危機感を打ち出した。一方で、温室効果ガスを大幅に削減する手段をすでに手にしているとも指摘。この10年間の行動が、人類と地球の未来を決めるという。

 報告書は、改めて温室効果ガス排出量が増えるほど温暖化が進むことを強調。世界で稼働または計画中の化石燃料インフラを使い続けると、気温上昇が2度を超える恐れがあるという。2度は温暖化対策の国際ルール「パリ協定」で掲げる目標だが、各国が提出している温暖化対策目標を達成しても2・8度上昇に達する可能性が大きいとする。

 IPCCはこれまでも警告を発してきた。しかし現実と落差がある。新型コロナからの回復で景気が復調。ウクライナ侵攻などによるエネルギー危機で欧州を中心に各地で一時的に石炭火力を稼働させる動きがある。国際エネルギー機関(IEA)によると、昨年の二酸化炭素(CO2)排出量は過去最多になった。国内でも停止していた石炭火力発電の再稼働が進む。中国は、再生可能エネルギーとともに国内の石炭を使った石炭火力の増設に走る。英シンクタンク「E3G」によると、世界の将来の石炭火力の計画のうち72%分を中国が占める。米環境NGO「世界資源研究所」は「今後数年間で化石燃料からの抜本的なシフトがなければ、世界は1・5度の目標を吹き飛ばす」と危機感をあらわにする。

 報告は温暖化が進むほど、「損失と被害が拡大する」と危機感を示す。食糧や水不足が増えるが、感染症の世界的流行や紛争などと重なるとより事態は難しくなる。

 水害や海面上昇は堤防などの治水対策で一定のリスクを減らせるが、「適応」には限界がある。すでに熱波や豪雨などの極端現象が増え、陸や海の生態系に相当な被害をもたらした。世界の食糧生産に悪影響を及ぼし、酷暑の増加で死亡率が増えているという。

 一方で、報告書は「まだ達成の道はある」と希望を残す。再生可能エネルギーや省エネ対策など100ドル以下の対策を活用するだけで、2030年までに排出量を半減できるという。太陽光のコストは10年から19年にかけて85%、風力は55%、電気自動車に欠かせないリチウムイオン電池は85%安くなった。効果的な対策は「政治の関与、制度、法律、政策、資金や技術によって可能になる」としている。規制・経済的手段として、二酸化炭素排出への価格付け(カーボンプライシング)や、化石燃料への補助金の撤廃などに言及した。

 国連のグテーレス事務総長は主要国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を年内に更新するよう呼び掛けた。「年末の国連の気候変動会議(COP28)までに、すべての主要20カ国・地域(G20)のリーダーが野心的な新しい目標を約束することを期待する」。温暖化に大きな責任を負っている先進国には、2040年までに実質排出ゼロを前倒しするよう求めた。

 先進7カ国(G7)のうち…

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